ご褒美は唇にちょうだい
そのまま指が私の口の中に侵入してきた。


「や……」


下唇の粘膜をこすられ、唾液を混ぜられ、そのもったいつけた触れ方に焦れて死にそうになる。
本当に意地悪だ。


「久さん!」


私は指を手で引き抜き、身体を反転させた。
久さんのスーツの胸に顔を押し付け、怒った口調で言う。


「やめて、きちんとして」


「へえ、おまえが命令するのか」


久さんの顔は見えない。
声は酷薄で、その声にすらゾクゾクとしてしまう私は、きっともう末期。


「操、『して』じゃないだろ」


「久さん……」


恐る恐る顔を上げると、冷えた視線で私を見下ろす久さんがいる。


「『私にキスしてください』だろ?言えないのか?」


「久さん……意地悪」
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