ご褒美は唇にちょうだい
自分で言ったくせに。ストレス解消の相手をしてくれるって。
それなのに、私にねだらせるなんて、悪趣味だ。

「言えないなら、してやらない」


久さんは本気だ。このまま私が悶々としながら寝たって、明日の仕事には影響ないとわかっているのだ。
ただ、私がひたすらに苦しく釈然としないこの放置プレイも、彼には楽しい遊びなのだろう。

私の騎士は矛盾している。
鳥飼操を徹底的に守りながら、女としての私の心は一切の勘定に入れないのだ。

私は嫌。

せっかく部屋まで来てくれた久さんにキスしてもらえないのは嫌。

キスだけが、私たち唯一の男女の触れ合いなんだから。


「キスしてください。久さん」


「どんな風に?」


「きちんと……時間をかけて……してください」


消え入りそうな声で懇願すると、久さんがようやく満足げに微笑んだ。

冷たい瞳で、美しく微笑む久さんは、とてもただの会社員には見えない。
私よりずっと演技力がある。

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