ご褒美は唇にちょうだい
操が小さく呻き、身体をよじった。
しかし、俺の手は解放されない。

俺は嘆息し、座椅子に背を預けると天井を仰いだ。

恋ではない。それはあり得ない。

だけど、こうして俺に頼って眠る操を愛しく思う気持ちもたぶん間違いじゃないのだろう。











*****






俺、真木久臣が転職をしたのは27歳の時だった。

大手の広告代理店に新卒入社したものの、上司ととことんそりが合わず、若者の思い上がりもあってか、大きな巣から飛び出した。

さほど仕事に情熱があるほうではないけれど、前職のようにひたすら力で押さえつけられるのはストレスフルだ。
業界を変えてみようと自由なイメージの強い芸能プロを受けることにした。

条件の良かった1社目で即内定が出た。
それがレグルスだ。

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