ご褒美は唇にちょうだい
「中学、高校は学業優先ということで、芸能活動は控えていたんだけど、そろそろうちの看板として売り出していこうと思うんだよね」


社長はニコニコと無邪気に言う。
横にいる操は、本当にこの子は女優だろうかというほど、無表情だ。
初対面のマネージャーに笑いかける気はないということだろうか。


「操さんは高校三年生ですよね。進学はしないんですか?」


操の表情の変化を狙い、また世間話の意味合いで俺は聞いた。
胡散臭くない程度に微笑んで。

すると、能面のような操の顔が歪んだ。
あきらかに敵意のある表情で俺を睨んでくるじゃないか。
かつての有名子役の思わぬ変化に気圧される。


「あなたも、うちの両親の差し金でそういうことを言うの?」


彼女の両親の話なんか知らなかった。意味が分からず俺はゆるく首を振った。


「いえ、そういった事情は存じ上げません」

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