ご褒美は唇にちょうだい
中高しかり、彼女の両親は操に人並みの学生生活を与えたかっただけなのだろう。
友情や、恋。
部活や寄り道。
そんなものを味わってほしかったのだろう。

しかし、操が欲しいのは年相応の思い出ではなく、女優としての未来。
彼女は自分のブランクで仕事が来ないことに焦りを感じているようだった。
この上、演技の邪魔になる進学などは不要と思っている。


「どんな役でもいいから、演技の仕事をとって」


俺にそういう彼女の瞳は真摯な情熱をたたえていた。

変な子だ。
年相応の喜びに背を向ける方が無意味だ。

いや、もしかすると彼女はコミュニケーション能力が低いのかもしれない。
集団で上手く過ごせない理由を、演技への情熱という体で埋めているのかもしれない。

なんでもいい。俺は仕事を全うするだけ。
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