ご褒美は唇にちょうだい
操はたったひとりで三場の全演技を10分にわたって演じきった。

ビッグマウスを疑って、操をテストした舞台の監督は、唖然。
その場にいた誰もが、操の本領に目を疑った。

セリフを入れていただけではない。
降板した女優以上の演技を、最高の輝きで演じのけてしまったのだ。

あまりの完成度の高さに、監督はその日のうちに脚本家に連絡を取った。
鳥飼操にもっと合うように一部台本を変えてくれ、と。




「驚きました。すごかったですね、操さん」


その日の帰り道、車中で言った。本音で感心していた。

自らの力で道を切り開いた彼女は、やはり才能ある女優だったのだ。我儘な小娘というだけではない。
何より、演技で圧倒された俺には、妙な感動が心に残っていた。


「私は演技ができるチャンスがあれば飛びつく。そのためにできることをしておいただけ」


操は静かに言った。
18歳の思考か?演技をしたいという一点のみに関して達観している。
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