ご褒美は唇にちょうだい
「真木さん、私ね、友だちいないんだ」


「へえ、意外です」


「心にもないことを言わないでよ。どうせ、『こいつ、プライベートで遊ぶヤツいねーだろ。このコミュ障』とか思ってるんでしょ?」


当たらずとも遠からず。
いや、そこまでは思っていないんだが。ともかく、彼女の前では表情に注意だなと思い知る。


「実際、私、協調性ないの。遊んでくれるのは妹くらい。でもね、クラスの中心的な女子の役がくればできる」


操の黒い瞳は凪いでいるように見えたけれど、その奥で爛々と炎が灯っている。


「演技ならなんでもできる。何にでもなれる。私には想像力があるし、再現する能力もある。誰よりも上手く演じきれる。だから、私にとって演技をするって絶対なの。存在証明で、切り離せないの」


「今日の演技は素晴らしかったです」


「チャンスがきたのは偶然だけど、運が良かった。日頃からキャスト全員を観察しておくのよ。隅々までね。そして、想像する。自分ならどうするか、登場人物の思考はどんなものか。納得いくまで考える。あとは、再現する」


言葉で言うなら簡単だが、出来すぎている。そんなことが容易にできるなら化け物だ。
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