ご褒美は唇にちょうだい
「久さん……」


しばしの沈黙を挟んで操が口を開いた。


「はい」


「やっぱり……利用する……利用させて」


絞り出すように言う操は、演技に向き合うため、経験を増やそうとしている。


「ええ」


「私の……練習相手になって」


そう言うと、操は細い身体を俺の胸に預けてきた。

操の身体に触れたのは初めてだった。
半年以上そばにいたのに、不思議な感覚だ。

見上げてきた操は瞳を不安に潤ませて、もの言いたげに薄く唇を開けている。


「そんな不安そうな顔は駄目です。台本では、あなたからキスしているんですから」


操の演じるヒロインは勝気で、このキスシーンも相手に飛びつくようにして始まる。


「だって……」


「キスは操さんから。でも、その後は相手役の工藤くんと呼吸を合わせればOKです。自信満々で、幸せな気持ちでお願いします」


「だから……」


操がキスを前に顔をそむける。
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