ご褒美は唇にちょうだい
「久さん、いつも通り過ぎる。私ばっかり焦ってる」


そうか、操は素の状態で演技に入れないのだ。
なるほど、協力するには工夫がいるのか。

俺は一瞬考えてから、口を開いた。


「じゃあ、俺が変わればいいんだな」


口調の変化に操がびくっと身体を揺らした。


「久さん……?」


「今はおまえのマネージャーじゃない。ただの男だと思って、利用しろ、操」


薄く微笑んで、とびきり低い声でささやいた。

タメ口も、こんな表情も、操は知らない。
真っ赤な顔をした操はほとんど泣きそうな顔で頷いた。

それから、おずおずと俺の首に腕を回してくる。

操から柔らかく重ねられた唇に、すぐに噛みつき返してやる。

驚いて身を引こうとする操をしっかりと抱き寄せ、歯列をこじ開けた。
台本通りじゃないだろう。そういうもんなんだよ、恋愛も性欲も。
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