ご褒美は唇にちょうだい
「久さん……ッ、ちょっと……」


俺の行為におののいている操がキスの合間に必死に叫ぼうとする。
俺を押しのけようと浮いた手を握り返し、拘束する。

泣きそうな操の吐息を飲み込んでから、わずかに唇を離した。


「……本番でも、それをやる気か?」


耳元でささやくと、操がふるふると弱く首を振る。


「つ……続けてください……」


「いい子だ」


操の初々しい反応に、胸の奥がちりちりと痛む。
なんだ、この遊戯は。
燃え盛る興奮のままに、目の前のベッドに操を押し倒してしまうこともできる。

それと同時に、演技のために、好きでもない男にファーストキスを許した操が健気で愛しくも思えた。
優しくしたい。大事にしたい。そう思った。




時間をかけたキスの演技指導は功を奏し、翌日の操は立派にシーンをやり遂げた。

諸刃だと心配していた。案外、昨夜のキスでパニックになってしまうのではないかと。

しかし、操には無用の心配だった。
きちんと俺に習った通りキスをする彼女は、経験を演技に応用できている。
昨日の怯えていた彼女からは考えられない姿だった。
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