ご褒美は唇にちょうだい
彼は私のスケジュール管理も、プロモーションも、営業もひとりでこなしてくれている。
敏腕マネージャーだと、三雲社長は言っていたけど、本当にその通り。
昔は大きな企業で働いていたらしい。どうしてうちみたいな小さなプロダクションに来たのかな。

18で彼に出会った。

大人に囲まれて仕事をしてきた私にも、彼のような大人の男は眩しかった。
正直に言えば、初めて会った時からドキドキと意識してしまった。それは大人の男性に対するささやかな憧れ。

私を『操さん』と呼び、まるでお姫様に付き従う騎士のように振る舞う彼。
男性に大人の女として扱われるのは初めてで、どう振る舞っていいかわからずに、いつも必要以上に冷静ぶってた。

小娘同然だろう私を、当然のように尊重してくれる。
女優、鳥飼操を理解しようとしてくれる。

いつも背中に彼を感じていた。
彼が私を後ろから守ってくれていた。

恋をしている、なんて言えない。

そんなことを口にすれば、彼はものすごく困るだろうとわかっているから。

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