ご褒美は唇にちょうだい
「もう、そんなになるんだ。最初に会った時、俺ADのひとりだったよね」


「私は8歳でしたね」


6歳子役から始めて17年、私は女優という職業についている。
今までは学業と兼任。今年度からは専任だ。


「シーン20入りまーす」


次のシーンに出番はない。
私はセットの外、準備された椅子にかけ、スタッフが出してくれたコーヒーに手をつけた。


「操さん」


背後から聞こえた声が本当によく知った声で振り向く。


「久さん」


後ろにいたのはマネージャーの真木久臣(まきひさおみ)だった。
私は久(きゅう)さんと呼んでいる。

5年、私のマネージャーを務めている男だ。


「今日は顔出さないって。迎えも来られないって言ってたじゃない」


私は彼の顔を見ずに言う。
いつも、私の久さんへの口調はきつい。それは自分でもわかっているけれど、もうずっとこんな関係なのだ。
今更改められない。
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