ご褒美は唇にちょうだい
「鳥飼さん!」


声をかけられ、思考の奥から立ち戻った。

顔を上げると、目の前に立っているのは小鍛冶奏だ。
衣装をつけて、同じくシーンの合間の休憩だろう。


「小鍛冶くん」


「お隣いいですか?」


私は少し右端に寄った。彼がすっと横に座る。


「はーっ!さっきのシーン緊張しましたー!」


新人らしい声を上げる小鍛冶くんが少しわざとらしく見えた。


「とてもそうは見えなかったけれど」


「緊張しますよ!だって、憧れの鳥飼さんの相手役ですから!」


おべっかかな、と受け流す気持ちで微笑むと、小鍛冶くんは続けて言う。


「俺の初恋って、鳥飼さんなんですよ。月9で鳥飼さんが演じてた雪子ちゃん」


“雪子”という役は、私が8歳の時にやった役だ。ヒロインの姪っ子という役どころで露出が多く、当時すでに人気子役だった私は視聴率アップに貢献したのだ。
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