ご褒美は唇にちょうだい





タクシーで家へ戻ると、部屋の前に妹の環がいた。


「やだ、環、来るなら事前に連絡して」


「あー、お姉ちゃん。LINE送っちゃったよ。私も今来たところ」


「撮影で遅くなったらどうするつもりだったの?」


「お母さんから鍵借りてきてるもん、お姉ちゃんの部屋の」


環は人差し指で合鍵をくるりと回した。待っているつもりではなく、先に入っているつもりだったらしい。
自由な妹に、私は嘆息する。


「部屋、何もないわよ。外に何か食べに行く?」


自分の鍵でドアを開けながら言うと、環は片手に下げていたビニールを見せる。


「デリ色々とフルーツタルト買ってきた」


環はどうしても私の部屋に上がりこむつもりらしい。

大方、母親にでも頼まれたのだろう。ちゃんとやってるか見てきてとか、男の人と住んでないか確認してとか。
両親の信頼においては、妹の環の方が上だ。
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