ご褒美は唇にちょうだい
環は勝手知ったる様子で、可愛いビジューのついたパンプスを脱ぎ、中に入る。
荷物をローテーブルに置き、キッチンで飲み物の準備を始めた。


「お姉ちゃん、何飲む?」


「水でいい」


「ハーフのワインも買ってきたよ。このくらいなら良いんじゃない?」


「環が飲んで。私、飲むと顔がむくむ方だから」


アルコールは、翌日撮影が無い日に飲むようにしている。付き合いでもない限り。
環はつまらなさそうに、ワインを野菜室にしまい、代わりに常備のガス入りのペリエを出してきた。


「お父さんとお母さん元気?」


「うん、ふたりともお姉ちゃんが忙しいのは知ってる。だから、無理して帰ってこなくていいよ。私が様子見に来るし」


「この前、帰ってこいってメールあったじゃない」


「真木さんがうちに寄ってロールケーキ置いてった。マネージャーが気を使うほど忙しいのねーという判断よ」


両親は私を芸能界に入れたことを後悔している節がある。
幼い頃の習い事程度の気持ちでいたのに、娘は一生を捧げてしまったのだから。
< 75 / 190 >

この作品をシェア

pagetop