春風センチメンタル

 一人きりで一晩過ごした事なんてないので、自分の他に家族が誰もいない夜という状況がどうなのか私には想像でしか分からない。例えば旅行先とか、台風の夜みたいな妙な高揚感があるんだろうか。

 舞子とは中一のクラスで仲良くなって、高一と高二で再び同じクラスになった。高三はクラス替えがないから、中高一貫で過ごす六年間のうち四年も同じ教室で過ごした事になる。同じバドミントン部所属。得意な教科が似ていたので選択授業も全て同じ。何となく目指していた志望学部まで同じで、体格が似ている事もあって周りからは双子みたいだとよく言われた。いつも一緒にいると雰囲気までもが似てくるらしい。
 けれどどんなに仲が良くても一生双子ごっこをしていられるわけじゃない。
 高校に上がると同時にアンケートが配られ急にリアル化した進路の二文字。最終的に私は推薦で地元の公立大学への進学を決め、舞子は遠く離れた地にある私立大学で学ぶことを決めた。

 これからは退屈な授業をする教師の愚痴を言い合う事も、体育館で隣のバスケ部のエースの姿に手を取り合ってこっそりはしゃぐ事もない。
お互い知らない世界で、知らない友情を育んで顔も分からない彼氏を作ったりして。

 帰って来た時は連絡して会おうね、と約束はしているけれど。これからは年に何回会えるだろう。
 週末にふらっと帰省するにはどうしても距離が遠い。単純に考えて彼女が帰って来るのは……長期休暇である夏休み、冬休み、春休み。GWは帰って来るだろうか。
 ほぼ毎日顔を合わせていた今までとは比べるまでもない。

 友情が終わるわけじゃない。けれどいつまでも終わってしまった中・高時代に縋り付いているわけにはいかない。それくらいの事は私だって分かっている。
 これから始まるそれぞれの環境で、私達は新しい人間関係を作らなくちゃいけない。メールやSNSを通じていつだって連絡は取れるけれど、旧友からの連絡だけが心の支え、なんて事にはなりたくない。
 私は同じ高校から同じ大学に行く同級生もいるし、何と言っても地元だから知った顔には事欠かない。誰一人知り合いのいない学校に飛び込んで行く舞子とは大違いだ。不安がないわけじゃないだろうけど、それでも彼女の顔は新しい生活への期待に満ち溢れていた。

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