春風センチメンタル
「実家の部屋よりずっと狭いけど、夏休みには遊びに来てよ」
「行く行く。その時は泊めてくれる?」
「もちろん」
「舞子も帰って来る時には連絡してね」
「うん、ちゃんと百合の都合確認してから帰省の予定立てるから」
そう言って舞子がにやりと笑う。
新幹線の到着を知らせる放送と音楽が乾いた音でスピーカーから聞こえてきた。線路の先へと目を向けると、ライトをつけた新幹線の先頭車両が少し傾きながら緩やかなカーブを曲がって走ってくるのが見える。
それは見る間に近づいてきて、同時に吹き寄せてきたさっきよりずっと強い風に私は髪とスカートを慌てて押さえた。
停車位置に並んでいた客の一番後ろから舞子が開いたドアの中へと乗り込む。停車時間は1分。もう間もなくドアが閉まる。
「じゃあ行くね」
「……いってらっしゃい?」
「なんで疑問形?」
思わず語尾が上がってしまった私の返事を聞いて舞子がケタケタと笑った。
「いや、こういう時なんて言ったらいいのか分かんないし」