オレンジの花
冷蔵庫から手際よく食材を取りだして、料理を始める。
包丁を取りだし食材を切り始めると、トントントン、と規則的ないい音が響いた。
この音がとても好きだ。なんだか落ち着く。
料理は好きだ。
ひとつの食材も、調理次第で色んな味が出せる。
生で食べたり、焼いて食べたり、煮込んだり。
全て同じ食材で作ったとしても、調理の仕方を変えれば色んな味が出せる。
新しい美味しさを作り出せた時ほど嬉しい事はない。
料理は好きで始めた訳ではなかった。
僕には両親がいない。だから生きていく為には何でもひとりでやるしかなかった。料理もその中のひとつに過ぎなかった。
両親がいないからと言って、思い出もなければ顔も覚えていないので、悲しいという気持ちはなかった。
僕は小さい時に拾われたナナの両親に育てられた。
おじさんもおばさんも優しく接してくれるし、ふたりが経営しているレストランでも働かせてもらっている。
好きな事が仕事というのは幸せな事だ。
僕はこれ以上は望まない。
町に出れば同い年くらいの紳士淑女が流行りの香水やジュエリー、スーツやドレスなどを身に纏い、毎日の様に愛だの恋だのと言って過ごしている。
それに比べたら淡々と料理だけをこなす味気の無い毎日の様だけれど、それが僕の日常であり、幸せでもあった。
今日も僕のそんな味気の無い毎日が始まる。
まな板の上で均等に切られていく野菜を見る。
この食材たちはどんな味を出してくれるのだろうか。
そんな事を思い、わくわくしながら、僕は包丁を握る手を進めた。
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