オレンジの花
オレンジパイなら、ドリンクは紅茶にしようか。
そう思い冷たい紅茶を淹れ、食器と共にナナたちのいるテーブル置くと、ナナが早速オレンジパイを箱から出した。
「すっごく並んでたの!朝早くから行ったのに、私達で最後だったんだよ」
そう言いながらナナは僕の食器に、はい、とオレンジパイを置いた。
オレンジの爽やかな香りと、焼き菓子の香りが鼻を掠める。
見た目は、全くと言って言いほど飾り気の無いオレンジパイだった。
間からのぞくオレンジは、惜しげもなく大ぶりなものが使われているのが見える。
「美味しそうでしょ?カナタの作るものと比べると、地味だけど」
僕の作る料理は、レストランで出すものだから見た目も味と同じくらい重視される。
こんなに全くと言って言い程飾り気の無いものは作らない。
でも僕は実を言うと、こういうシンプルなものの方が好きだったりする。
もちろんレストランで出す華やかなものも好きだけれど。
「はやく食べよ。店でも食べられたんだけど、どうしてもカナタにも食べさせたいってナナが持ち帰ってきたんだ」
ナナは本当にカナタが好きだよね、とにやにやしながらシルカが言った。
それを真っ赤な顔をしながらナナが否定する。
「もっもうシルカ、余計な事は言わなくていいの!はやく食べよ、もう!」
いただきます、とナナがいちはやくオレンジパイにフォークを入れた。
僕もいただきますと言い、ナナに続いてオレンジパイを口に運ぶ。
見た目と一緒で、すごく飾り気の無いシンプルな味だった。
色々加えるのではなく、オレンジの良さを感じてほしい。
作り手のそんな気持ちが伝わるようなものだった。
ほんのりとバターの味のするさくっとしたパイ生地。
オレンジは、甘みが強いものだった。酸味が後からくるが、その酸味が丁度いいとても美味しいオレンジだ。
これ以上バターの風味を強くしてしまったら味がくどくなるし、何よりオレンジの良さをバターが消してしまう。
よくあるパイ生地のバターの味が強いパイではなく、ほんのりとした味なので、オレンジがよく引き立ち、すごく美味しかった。
「オレンジが主役のパイだね。シンプルだけどとても美味しい。」
いや、シンプルだからこそ美味しい味なのだろうか。
「うんうん、すごく美味しい!」
「オレンジが甘くて本当にうまい」
ナナもシルカも美味しいと絶賛していた。
本当に美味しい。
レストランや町のケーキ屋には無い、素朴な味がする。
これなら遠い小さな村のケーキ屋のものでも、噂になるはずだ。
「優しい味がするね。なんだか食べると笑顔になっちゃうみたいな」
ナナの言う事は本当で、すごく優しい味がするこのオレンジパイは、食べるとほっとする気持ちになる気がした。
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