オレンジの花
真夜中の3時。
仕事が終わった僕は、真っ暗な帰り道をひとりで淡々と歩く。
今日も僕の1日が終わる。
今日はいつもより忙しくて、酷く疲れた。
家に帰ったらすぐにお風呂に入ろう。
あぁでもお腹すいたな。どちらを先にしようか。
そんな事を考えながら、歩き慣れた道をひたすら歩いていく。
少し肌寒い。
まだまだ昼間は暑い日が続くが、夕方になると少し涼しくなってきた。
夜中になると肌寒いくらいだ。
しばらくしたら夏も終わるだろう。
夏は嫌いな僕だけど、なんとなく寂しさを感じるのは何故だろう。
仕事帰り、肌に触れる真夜中の少し冷たい風が、なんだか寂しい気持ちにさせる。
そう。夏も終わるのだ。
オレンジの季節が終わる。
…あのオレンジパイ、美味しかったな。
ナナたちとオレンジパイを食べたあの日から、3週間が過ぎていた。
かなりの時間が過ぎた様な気もするし、割と最近な気もする。
あのオレンジパイの味を忘れた事はなかった。
店の裏にオレンジの木が何本かあり、おじさんに頼んでいくつか貰って、見よう見まねで作ってみたが、同じ味は再現出来なかった。
あのオレンジでなければ同じものは作れないのだろうか。
でももうオレンジの季節も終わる。食べられるのは来年か。
まだ夏も終わっていないと言うのに、来年の夏が楽しみになっていた。
ふと思う。
あのオレンジパイを作っているケーキ屋は、秋になるとどうするのだろうかと。
もちろん夏でもオレンジパイしか売っていないという事はないと思うが、なんだかすごく気になった。
4日後、店は休みだ。
その日にでも、そのケーキ屋に足を運んでみようか。
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