Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
「史也、そいつは?」
「ちょっと面倒見ることになった」
「ふーん、誠記も?」
「誠記はどうかな?
とりあえず今のところは俺の玩具かな」
玩具って何だよ。
そう思いながらも、何も逆らえない立場の俺は、
その3人と共に、書店のあった建物を出て高層マンションへと入っていく。
「お帰りなさいませ。
蓮井さま」
「ただいま、何時もありがとう。
留守の間、何かありましたか?」
「従兄弟のウィリアム様が訪ねてこられました。
一週間、あちらの学校の行事で滞在予定だそうです。
連絡先を言付かっております」
「有難う」
受付のスタッフと会話をして、
メモらしきものを受け取ると、
そのままエレベーターに乗り込む。
最上階の一角のドアの前で、鍵を出して扉を開けた。
玄関ポーチと、ホールがあってその先に続く広い空間。
そこには、プロカスタムって言うのか
何時もよりも鍵盤数の多い、エレクトーンがドーンっと
存在感を見せている。
「誠記、そいつで言いなら好きに使ってくれて構わない。
後は君はこっち。
俺の部屋においで」
そう言って史也の後についていくと、
そこには、アンティークの学習机と本棚。
そして二台のエレクトーンが並べられて、
その奥にも扉を見つけた。
「すげぇ、この家エレクトーン何台あるんだよ。
三台だぜ。一般家庭でありえないだろ」
ステージアとEL900m。
2つの機種が並べられた部屋。
そして本棚の前から、がさっと取り出された
楽譜を俺の前にデンっと置く。
「はいっ、今日からお前の課題。
俺が3歳の頃からやってきた課題だよ。
とりあえず、着替えてくるから弾いてみて」
そう言うと、ソイツは奥の扉を開けて部屋を出て行った。
ELの900mのスイッチを入れて、
簡単な楽譜から順番に弾き進めていく。
右手だけの楽譜に簡単なコードが入ってくる左手。
徐々に、いろんなコードの記号だけが楽譜の上に現れていく。
おたまじゃくしを追いかけるのも苦手だけど、
コードもわかんねえって。
えっ?
B♭m【ビーフラットマイナー】
何だった?
コイツ……。
思い出したくても、なかなか思い出せない俺の傍に戻ってきたアイツは、
すかさず、目の前の鍵盤を押す。
シのフラット。レのフラット。ファ。
あぁ。
「だったら、足はこの音だよな」っとシのフラット鍵盤を押す。
「OK。
んじゃ、次はその下」
その日、俺は今まで良くわかっていなかったコードを史也に叩き込まれた。
「コードとコード進行の特徴は覚えて置いて損はないから。
んじゃ、もう遅くなったからまた明日。
明日も教室の前か後、時間が作れたら見てあげるよ。
これ、俺の連絡先」
そう言って、史也は俺の前に名刺を差し出した。
こう言う名刺の肩書が、俺とコイツの差を半端なく感じさせる。
「あっ、じゃ俺も」
慌てて連絡先を報せようとしたら、
その手を史也はすかさずとめる。
「いいよ。
泉貴が連絡くれた時で。
初回だけメールで連絡先と一緒に送信して」
それだけ告げると、彼はダイニングの方へと向かっていく。
「お疲れ様。
史也、ご飯できたよ。
誠記も食べてくだろう?
んで、そこの君は?」
ダイニングのテーブルの上には、
焼き豚がスライスされて、
お皿の上に並べられていて、
その隣には、色鮮やかな野菜のサラダ。
スープに、パスタの麺。