Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30


同じ教室なのに、
そんなことも知らずにレッスンに通ってたんだ私。


『知ってると思ってた』
由美花が切り出した一言が、チクリと心に突き刺さっていく。


放課後になって、いつものように由美花と藤宮から帰宅すると
テンションがあがらないまま、音楽教室へと顔を出した。



*

「舞台見に行った?」

「えぇ。
 私、お父さんにチケット取って貰って
 昨日行ってきたの」

「まぁ、昨日の公演は史也さまと大田先生の演奏ですよね。
 しかもメインキャストが湊くん。
 
 チケット良く取れたわね」

「私は誠記さんと史也さんの演奏の公演で見てきました。
 誠記さんのリアルパーカッションは何時きいても凄いわ。

 もっと演奏者にスポットを当てて頂かないと、勿体ないわよ」


*



同じクラスの子たちは、そんな会話をしながら
舞台の話題で持ちきりだった。



輪に入れるわけでなく、レッスンの時間までボーっと壁に張られたいろいろな情報を見つめていく。



その中に紛れていたチラシ。

そこには、今回の舞台の演奏をする旨の名前が記載されている3人。

惹かれるままに裏面を見つめると、
ここの生徒にしかわからないはずの情報が、
ホッチキスで止められていた。


各公演日の演奏者の名前。


もう過ぎてしまった日にちから順番に辿りながら、
史也君が演奏する日をメモ用紙に書き出していく。


今日のレッスンが終わった後、
コンビニの端末で舞台の名前と会場・日付を打ち込んで
チケット購入を企むものの、すでに全公演完売で私が行くことは叶わなかった。



ミュージカルの舞台のバックで生演奏をしたり、
スポーツの大会のオープニングで演奏したりとコンクール以外にも大忙しの、
史也くんと誠記さんは12月になってようやく教室に姿を見せた。



「奏音ちゃん」


久しぶりに教室に姿を見せた誠記さんが、お土産のキーホルダーを手にして
私の傍に近づいてくる。

「お疲れ様です。
 ミュージカルの演奏ってどんなことするんですか?
今回はハムレットだったんですよね。」

「違うよ、アニーとハムレット。
 2公演の演奏を掛け持ちしてた。」

「ハムレットはチラシにあった奴ですよね。
 でもアニーまでしてたなんて、初耳です」

「アニーはね、師匠が毎公演頼まれてるんだよ」

「アニーってあのtomorrow(トゥモロー)のアニーですか?」

「トゥモロー知ってるんだ。
 あの有名な曲も勿論伴奏するよ。

 同じ曲でも、同じ演奏はしない。
 音色とアレンジを変えながら、
 その物語の世界に色を添える。

 それが俺たちの役割だからね。
 さっ、離れていた二週間。

 ハムレットにしても、アニーにしても基本的にやってることはわからないかな。

 歌い手演じ手と呼吸を合わせながら、その舞台に色を添えていく。
 演奏が目立ちすぎても行けないし、舞台は生き物だから……役者の呼吸にあわせて、
 その場その場で臨機応変に変化させていくことも重要。

 凄く勉強になるんだ。

 さて、奏音ちゃんが何処まで実力が伸びたか楽しませて貰うよ」



なんて誠記さんは言いながら史也くんの元へと帰っていく。





なんて誠記さんは言いながら史也くんの元へと帰っていく。



手元には誠記さんがお土産にくれた可愛らしい音符のキーホルダーと鍵盤型のミニタオル。
ミニタオルには、史也君と誠記さんのサインと公演名・日付。


その最後には「頑張って奏音ちゃん応援してるよ」っとメッセージが添えられてあった。



そんな宝物を鞄に入れて、何時もの様に他のクラスのレッスンが終わって
入れ替わりに私たち三級クラスが中へと入る。


二週間ぶりに史也くんと誠記君がレッスンルームに姿を見せた日で
教室内が一気にざわめきだった。



「はいっ。
 んじゃ、今日はレッスンの前に良い演奏を聴くことも必要だよね。

 大田先生、史也、誠記の演奏でミュージカルのアニーメドレー宜しく」



美佳先生の一言に一斉にざわめく教室。



「誠記、大田先生呼んできて」


美佳先生に言われるままに、
誠記さんは教室の扉を開けて出て行く。


史也くんと言えば、自分が使うと決めたエレクトーンに座って
持ち歩いてるUSBメモリからデーターをインストールしてるみたいだった。


何かボタンを押しながら軽く音を出して、
指の柔軟を続けて準備を整える。



そんな史也くんの仕草に皆の視線が集中してる。



だけど何時も笑顔を振りまいてる裏側で、
何となく史也君は『人を信じられないのかもしれない』っと
そんな風に深読みしてしまいそうになるほど時折、
氷のような冷たい眼差しが周囲に突き刺さる。



「美佳、遅れてすまない。
 俺のパート、君が演奏しても良かったんだけど」 

「何言ってるんですか?
 先生、早くスタンバイしてくださいよ」



そんな先生の二人のじゃれ合いの間に誠記さんも
エレクトーンのセッティングを終えて、
三人はあっと言う間にアイコンタクトをとって演奏をはじめた。


有名なトゥモローの曲しか、メドレーの曲はわからなかったけど
凄く素敵だったのだけは覚えてる。


三台のエレクトーン。
六本の手と足で紡ぎ出される演奏。


その中で私の耳は、小さい時からずっと
慣れ親しんできてる史也君の演奏の癖を手掛かりに
耳をダンボにして神経を研ぎ澄ませていく。



時折、演奏する傍から読み取った音符を指先で奏でるように、
音を0【ゼロ】に絞った、エレクトーンの鍵盤に触れていく。



三人の演奏が終わった後は、
何時もの様に私たちの練習。
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