Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
6.アイツのクラスを目指して-秋弦-
【12月下旬~冬休み~】
史也に拾われる形で末端のクラスに入学することが出来た俺は、
その日から真面目にエレクトーンと向き合い続ける。
前以上にエレクトーンにどっぷりと浸かり続ける日々を歩き始めた俺は、
ゲームセンターでの集会も顔を出さなくなった。
K中学と自宅の直行・直帰の繰り返し。
そして電車で隣町の大田音楽教室に顔を出して、
史也のマンションで更に個人レッスンをして貰う毎日だった。
景以外の不良仲間には、エレクトーンに夢中になりだしたとバレて
気味悪がれたり、からかわれたりと、居心地の悪い時間が過ぎたけど
どんな喧嘩の時も、指だけは意識的に守るようになった。
指も足も演奏の為には怪我するわけには行かない。
必死にエレクトーンを向き合い続ける俺に、
景だけはいつも「頑張れよ。奏音ちゃんに会えるといいな。お前凄いよ、ホントに入学しちまってさ」なんて
俺の努力を一番近くで受け止めてくれた。
そんな日々を過ごし続けて、最初の進級試験の合格発表の日。
俺はいつものように大田音楽教室のドアを潜った。
年の瀬、年末、冬休み。
おまけに、クリスマスって言うこの日も俺は、
アイツの指示通り、奏音を追いかけたいのを我慢して
この場所へと姿を見せてた。
「おはよう、泉貴くん。
お待ちかねの結果表よ」
そう言って、封筒を俺に手渡すのは美佳先生。
恐る恐る、その封筒を破って中のカードを確認する。
*
合格
泉貴秋弦を1月のレッスンより、
上級クラスの生徒とする。
*
そのカードを確認して、
思わずガッツポーズ。
そんな俺の行動に美佳先生はクスクスと笑いながら
話しかける。
「史也くんのレッスンは大変でしょう?
でも見えないところで、
史也くんもずっと努力してきた。
泉貴くんの演奏も最初の頃とは見違えてきたわ」
そう言うと、美佳先生は入り口のドアから姿を見せた
大田先生に呼ばれて二人でレッスン室に入っていった。
レッスン時間前。
まだ誰も来ていない教室のソファーにどっしりと座りながら、
俺は音楽教室の試験を受けた日から今日までの間を思い返してた。
*
大田音楽教室の入学試験。
クラス分けの試験だけだろうと、
余裕ながらに受験しようとした演奏だったけど、
教室に入った途端に、そんな気持ちは吹っ飛んだ。
演奏を試みるもズタボロで試験結果なんて、
聞くまでもなかった。
不合格って言われかけたその時、俺を助けてくれたのは、
ガキの頃から奏音が、キャーキャー言ってるあの男。
【はすいふみや】が蓮井史也って事がわかった。
そしてアイツによって、最下位クラスから入学が許された俺。
だけど……俺にとって、びっくりしたのは、
蓮井史也、直々に俺のレッスンを教室の合間に
見てくれることになったってことだ。
けど胸中は複雑だぜ。
なんせアイツは奏音の憧れの存在。
奏音の心を虜にしやがるアイツは、
俺にとっては恋敵だ。
けど物は考えようだ。
アイツのテクニックを吸収して俺はアイツを越えるっ!!
越えて奏音を振り向かせてやるんだっ!!
ってなわけで、俺は今に至る。