Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
「秋弦、やったな。
結構、いい感じになってた。
史也はリアルパーカッション苦手なんだよな。
コイツは、どっちかってと音色の作り方、生み出し方が絶妙なんだ。
表現の史也。
技使いの俺ってな。
まぁ、俺の方はそこまで音色の使い方が上手くいかないんだよな」
そんな風に言いながら、
誠記さんはゆっくりとエレクトーンから離れた。
「それより、史也。
休憩室で奏音ちゃんが泣いてた。
何か言った?」
「あぁ、前から気になってた。
松峰には失望したって伝えただけだよ。
今のままじゃ、アイツが演奏する意味はない。
だからやめちまえって」
えっ?
史也から口に出た思わぬ言葉に
俺が驚きを隠せない。
奏音……憧れのアイツにそんな言葉突きつけられたら
お前の心は?
チクショー。
コイツの技術には、
俺は逆立ちしたって越えられねぇよ。
今は……まだ。
けど、奏音にそんな言い方することねぇーじゃん。
アイツは……アイツはガキの頃から、
俺が悔しくなるくらいお前しか見てないんだよ。
お前だけを全身で求めて
エレクトーンに必死だったんだ。
俺が……アイツにを
振り向かせたくてエレクトーンを始めたように
確かにアイツのきっかけも、不純かもしれない。
だけど……そんな言い方しなくても
いいじゃねぇか。
やばい……奏音絡みはやっぱ、俺理性が制御出来ねぇ。
「あのさ、俺に教えてくれてるのは感謝してる。
お前が上手いってのも、悔しいけど知ってる。
けど上手いからって誰かを傷つけていいってことはねぇだろ」
右手に拳を作って震わせながら吐き出した言葉。
「おいっ、秋弦。
お前もやめろって。
史也、お前もむきになるなよ」
狼狽えたように、仲裁に入り始める誠記さん。
「喧嘩にもならないよ。
秋弦、お前にもわかってるだろう。
今のお前にあって昔のお前になかったもの」
今の俺にあって、
昔の俺になかったもの……。
自分?っでいいんだよな。
それって。
「何となく見えてるものはある」
「ならいい。
今の松峰にはそれが欠けてる。
アイツは俺になろうとしてる。
音の伝え方も何もかも時間が経てばたつほど、
俺だけを追いかけてる。
そんなの音楽を冒涜してるだろ。
アイツにも、楽しみ方に気が付いてほしい。
それがわからない俺のコピーは必要ない。
ただ、それだけだよ」
そうやって告げたアイツのプリンスはその後も、
黙々と自分の借りているエレクトーンで作業を続ける。
プリンスと呼ばれる男は、自分に厳しくて、
他人にも厳しくて、シレっと顔に出さないだけの退屈なヤツかと思えば、
心の中には熱い魂がたぎってる。