Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
家に帰った時には、私の部屋にずっと存在感を放ち続けていた
私のエレクトーンはその場所に居なかった。
溜まらなくなって、お母さんの姿を家の中を探し回るけど、
両親の姿はない。
酷いっ。
私に黙って、私の宝物をどっかにやっちゃうなんて。
「薄情ものっ!!」
床に拳を叩きつけながら、
私は相棒の後が今もくっきりと残る
カーペットの上にヘタヘタと座り込んで、
その場所を撫でるように触れる。
『ごめんなさい……。
私が、あんなことを言ったから』
そう思う心と
『これでよかったんだよ。
これで、もうエレクトーンを諦められるでしょ。
プリンスに嫌われた世界に、
奏音の居場所はないんだから』
交錯続ける二つの心。
相容れることのない私が
心の中でせめぎあいつづける。
私の家にエレクトーンがなくなって、
由美花とも話すのが辛くなってた。
由美花は誠記さんの妹で、
誠記さんはプリンスの友達だから……。
一人、頑なに孤立していく私。
そんな私の前に、
信じられない奴が姿を見せた。
「奏音、何やってんだよ」
藤宮学院の中等部の学校門の前に立つ
見慣れたK中学の制服姿の幼馴染。
藤宮の生徒たちの視線が、
他校の制服に集中する。
「何でこんなとこまで来たのよっ!!
帰って」
嫌がる私の手首をガシっと掴み取って、
ひきづるように近くのマクドナルドへと連れ込んだ。
「いらっしゃいませ」
店員さんがにこやかにスマイルと共に迎え入れる。
「あっ、俺これとこれ。
ドリンクはコーラ」
「かしこまりました。
ビッグマックのセットをコーラーでですね。
他にご注文は?」
そう言うと店員さんの視線は
私へと向けられる。
「ほらっ、奏音。
俺の奢りだから遠慮なく注文しろ」
そんな風に促す秋弦。
だけど……今は、そんな気分じゃないよ。
答えられないでいると、
アイツは勝手に注文を始める。
「んじゃ、こいつのはエピフィレオのセット。
飲み物は、コーラ-で」
そう言うと……秋弦は昔からずっと私が注文してたメニューを伝える。
会計を済ませると、用意された二人分のバーガーセットが入ったトレーを
トレーを抱えながらテーブルへと移動した。
テーブルに着席した途端、ビッグマックを頬張りながら、
「お前、何で休んでんだよ」ってモゴモゴと口の中に、
頬ばったまま声を出した。
「もう秋弦のバカ。
口に物を入れたままじゃべんないでよ。
それに私が、レッスン行かないのは私の勝手でしょ。
アンタに何がわかるのよ?
史也くんに……。
史也くんに気に居られて特別レッスンして貰ってる
アンタなんかに、私の気持ちなんてわかるわけないでしょ」
ここが店だって言うのを忘れて、
気が付いたら大声でわめいてた。
ずっと心に秘め続けてた
醜い醜い大嫌いな私自身。
「そうだな。
お前の気持ちなんかわかんねぇよ。
ただアイツに、失望したって言われただけで
逃げ出したお前の気持ちなんかな。
そんな弱虫のお前の気持ちなんか、わかるかよ。
それに……お前も、俺の気持ちなんてわかりゃしねぇ。
アイツばっかしか見えてなかったお前の曇りガラス。
少しは晴れたかよ?」
えっ?
何?
秋弦?
「……」
何も言えないまま、
ただ秋弦をじっと見つめ返す。