Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30



「何だよ。
 何、驚いた顔してんだよ。

 お前こそ、何がわかんだよ。

 史也史也ってアイツにイカレタ脳みそだけだった
 お前にライバルに教えられる屈辱がわかって溜まるか。

 俺がアイツを利用してるのは、アイツの技術は半端ねぇ。
 だからアイツを利用して俺は高みに昇る。

 アイツを越えて、
 お前を振り向かせたかったんだよ。

 そんな俺の気持ち、
 お前は気づこうともしなかっただろうが」





えっ?


秋弦……何言ってんの?







史也くんを思い続ける私を
振り向かせたくて、ずっとやってきたって?




思いがけないアイツの言葉に
何も言い返せなくて、
ただ……その場で、椅子に座り込む。






その時、マネージャーさんらしい人と、
店員さんが、私たちの方に近づいてくる。




「申し訳ありません。
 他のお客様の……」 



そう言って窘められた時、
見慣れた制服姿の誠記さんが私たちの方に近づいて来た。



「叔父さん、こいつらが
 騒ぎを起こしたみたいで悪かった」

「誠記の知り合いだったのか?」

「あぁ、俺のエレクトーンの後輩。
 まぁ一人は放浪中だけどな」




誠記さんはそんなことをいいながら、
私と秋弦が座るテーブルへと腰かけた。





「誠記、何でいるんだよ」


「何でって、放浪の姫のご機嫌伺いと
 妹に頼まれたからねー」



そう言うと、テーブルにあったポテトを摘まんで
口の中に放り込んだ。



「あっ、ここ叔父さんが任されてる店なんだよね」



なんて言いながら、一本、また一本とポテトが
胃袋の中に吸収されていった。




「ちくしょー。

 なんで、俺……タイミングわりぃかな。

 また今度は誠記に美味しいところ、
 掻っ攫われた」


髪をガシガシとかきながら
不貞腐れたように椅子に座る秋弦。



「それで放浪中の奏音ちゃんは、
 何か見えてきたかい?」



ふざけていたのに、突然真面目モードに切り替わった
誠記さんが鋭い視線と共に本題に押し入る。


その隣、秋弦は拗ねたように
バーガーをもくもくと頬張ってた。




「見えるも何も……わからなくなりました」

「わからなくなったから練習に来なくなった?

 わからなくなったら、エレクトーンからも
 史也からも逃げ出したのかな」


そう言われた言葉に
何も言い返すことなんて出来なかった。




「少し時間貰っていい?

 何時までも、ここに居るわけにも行かないから」



そう言うと、誠記さんは携帯を取り出して
何処かへと電話をかける。



電話をかけた後、使い終わったトレーを片づけて
店の外に出ると一台の高そうな車が滑りこんでくる。



ゆっくりと停車したその車の窓が静かに下がると
中から顔を覗かせたのは史也くんだった。



それと同時に、運転席から出てきた男の人が
後部座席のドアを開く。




誠記さんに促されて乗り込んだ先には、
史也くんそっくりの男の子と、綺麗な女の人。




委縮してる私と違って誠記さんも、秋弦もその車内へと
堂々と乗り込む。



「早く奏音ちゃんも乗りなよ」



誠記さんに差し出された手を恐る恐る受け取って
乗り込んだ私を秋弦は自分の隣に引っ張って座らせた。



何?
どうなってんの?





「悪いな、史也。
 俺んちでおろしてよ」

「いいよ。
 どうせ同じ帰り道だから」



史也くんの合図で車は再度動き始める。



めちゃくちゃ、
居づらい車内なんだけど。





一人、孤立化した車内。




車内では秋弦がエレクトーンの話題で
誠記さんと花を咲かせてる。


そして……史也君は良く似た先客と、
外国語で会話しながら談話してた。

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