Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30






「こんにちは」

「こんにちは、いらっしゃい。
 あらっ、史也くんは一緒じゃないのね」


音楽教室のドアを潜った途端に、
受付のカウンターから声をかける美佳先生。



「あっ、はい。
 今日は学校から直接来たので」

「そう。
 今日は一番奥のAルームで練習して貰って構わないわよ。

 ただ奏音ちゃんが良かったら18時~19時の間、
 初級クラスのレッスンを私がするんだけど手伝って貰えると嬉しいわ」

「いいですよ。
 私も勉強になりますから」

「有難う。

 そうそう、Aルームで秋弦君が練習してるの。
 次のクラス手伝って貰う予定だから交代してきて」

「はぁーい」



荷物をカウンター裏の棚の中に片づけて、
楽譜だけ抱えるとAルームの教室へと向かう。



重たい防音ドアを開けると、
そこにはストリングスの音色が空間一杯に響いて
そこからキラキラと輝くように音色が時折、交わっていく。



秋弦曰く、水面の波紋を表現したいだって
言ってたその音色を聴きながら、近づいていく。


完全に自分の世界に入りながら
演奏している秋弦は、一曲弾き終わるまで
私が入ってきたことにすら気が付かなかった。




「お疲れ様」

「おぉ、奏音。
 来たのかよ」

「うん。そっちは早いじゃん」

「まぁ、お前のクラスと違って授業短かったし」

「そうだった。うちの科だけ他の科より授業多いんだよね」
 
「その辺、藤宮はやっぱり私立だよな。
 次のテストも赤点とらないように必死だよ。
 前の中学とも進行スピード違い過ぎるし」

「でも秋弦が選んで来たんでしょ。
 まさか、藤宮に秋弦が来るなんて思わなかったもん。
 
 あっ交代。美佳先生が呼んでたよ」

「いっけねぇ。
 今日、頼まれてんだ」





そう言うと秋弦は楽譜を手に慌ててレッスン室を出て行った。



一人になった練習ルーム。


今度はポケットから自分のレジストデーターを取り出して
エレクトーンへと取り込む。



M1に操作して、レジスト画面に設定すると
プロフェッショナルモデルの前に座る。


家庭用にある、一般的なものと比べて
上鍵盤の数も、下鍵盤の数も違う。

一般的なものは、49鍵の上下鍵盤に対して
今触っているのは、61鍵。


足鍵盤は20鍵に対して、
こちらは25鍵。


史也くんの自宅で触った時には
戸惑ったけど、もうその感覚には慣れた。



史也くんも誠記さんも、それに秋弦だって、
今回は私にとってお互いを高めあうためのライバル。


負けられないんだから……。




両手首をクルクルとまわしてスタートボタンを押す。

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