Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30



明日は本番だろっ!!



チクショー。


明日が本番だってのに、
あの馬鹿やろうは何やってんだよ。



涼しい顔で、
手厳しいことばかりいいながら
アイツは……。






怒りに震える手を必死に抑えて
優しく奏音を包み込む。






「練習はどう?」






防音室のドアが開いて、
大田先生と誠記さんが姿を見せる。




驚くように、慌てて離れると
俺の腕から解放された奏音の体が崩れ始めて
慌てて床に膝をついて抱きとめた。






「奏音?」

「奏音ちゃん?」

「松峰さん?」





俺、誠記さん、大田先生が順番に奏音の名前を読むけれど
アイツは疲労からか精神的なものか熱が出ていたみたいで、
呼吸を荒くしながら顔を赤くしていた。


慌てて俺が抱きかかえたままの奏音ちゃんの額に
誠記さんが手をふれる。



「熱、高いよ」



その声に、大田先生は美佳先生を呼びながら
奏音の体をラクラクと俺から奪って抱き上げた。




「美佳、松峰さん熱出てる。
 親御さんに連絡して。

 高いから俺が車で病院に連れて行く。

 誠記、美佳と一緒にレッスン見てて。
 本番前に悪いな。

 秋弦、お前は?」




留守番役なんてまっぴらだ。



「俺も行く。
 それに俺は奏音の家族の連絡先も知ってる」




滅多に俺が電話することなんてないけどっと心の中では付け足しながら、
大田先生の後を追いかけた。





大田先生の運転する車は、すぐに近所の大学病院へと滑り込んで、
診察手続きを済ませる。



そこの病院の関係者をよく知っているのか、
先生は受付で会話を交わすと奏音はすぐに奥の診察室の方へと通された。



アイツが診察室に居る間、ボーっと待合室で待つ俺に、
信じられないヤツが通り過ぎる。





えっ?


史也?
アイツがなんで……。







慌てて立ちあがって追いかけようとするものの、
「秋弦君」っと奏音の母親から声がかかって
そっちに気をとられている間に史也の姿は俺の視界から消えた。




「秋弦君、奏音は?」

「今、先生が中に付き添ってます」

「どうしたのかしら?
 熱だなんて……」

「って言うか、おばさん聞いてない?
 アイツが好きな史也さんが少し前から教室に来なくなったんですよ」

「まぁ、そんなことがあったの」

「そんなわけでアイツは今、精神的に不安定すぎて
 見てらんないんです」



そう……見てらんない。




待合のソファーに座っておばさんと話していると、
大田先生が姿を見せて、近づいてくる。



「先生、奏音は?」

「大丈夫。
点滴が終わったら帰れるみたいだから。 

 明日コンクール当日ですが、
 出場出来そうなら会場まで連れてきてください。

 俺も朝一には入ってるんで、向こうに一台練習用のエレクトーンに搬入しておくんで
 それで最終仕上げ、確認します」

「本当に何から何まで、有難うございます」




アイツのおばさんは、
深々と、先生にお辞儀をした。




「んじゃ、秋弦。
 帰って、最終調整に入るぞ」

「うぃーす」





大田先生に言われるままに返事をすると、
奏音の事はおばさんに任せて病院を後にした。




今までの俺だったら、ずっとアイツが出て来るまで
傍に居たと思う。


だけど今の俺に、そんな時間はない。



おばさんが来てくれたなら安心だ。



後は任せて明日に向けて最終調整。


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