Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30


「私……何を言われても出場する。
 
 だって予選から勝ち上がってきたんだもん。
 私が出なかったら通過しなかった人にも申し訳ないよ」



完全な演奏にならなくても、
ちゃんと出場はしたい。



それが勝ち上がってきた
私のやるべきことでもあると思うから。




「行ってきなさい。

 小さい時からずっと目指してきた
 奏音の夢なんだろ。

 悔いのないようにしておいで」




お父さんはそう言うとお母さんと二人顔をあわせて
紙袋を手渡す。




「奏音が今日の衣装の事何も言わないから、
 お父さんと二人で探してきたのよ。

 セミファイナルでしょ。
 
 ちゃんと心機一転、新しいドレスでステージに行ってらっしゃい。

 お父さんもお母さんも、
 こういう応援のやり方しかしてあげられないけど」





覗きこんだ紙袋の中には、シフォンの柔らかい布をベースに
ふんわりと広がりを見せるアイリッシュダンス風な可愛いドレスが入ってた。


そのドレスを自分の体にあててみる。




「風の歌を表現したオリジナル曲なんだろう。
 秋弦君に聞いた。

 お父さんたちには、思いつかなくて
 秋弦君に録音して貰った奏音の曲を聴かせて
 お母さんの友達に作って貰ったんだよ」



お父さんの言葉に私の方がびっくりした。




「……有難う……。
 ちゃんとこれを着て私頑張ってくる」


「なら準備してきなさい。
 会場まで、お父さんが送っていくよ」





言われるままに頷くと、
私は出掛ける準備を済ませて
お父さんの待つ、車へと向かった。



車内でも今日は、
無音空間に私の指先だけが空を動く。



脳内に響く音色を手掛かりに、
両手、両足を忙しなく動かしながら
必死に自分の曲と向き合う時間。



渋滞に巻き込まれながらも
辿りついた会場で「おはよう」って
秋弦に声をかけた途端びっくりしてた。




「奏音、なんて顔してんだよ」


なんて顔色って……。


「だって……今日は大切な日だから。
 史也くんは?」

「あぁ、史也はまだ居ない。

 あっ、大田先生が練習室借りてくれて
 エレクトーン持ち込んでる。

 弾いてくるか?」


「うん」



秋弦の声に座りたいのもあって
私は練習ルームを借りることにした。



座りたいとか、
疲れたとか言ってられないんだけとな。



ちゃんと練習しなきゃ。






一通り、練習ルームのエレクトーンを弾いているとき、
大田先生が様子を見に来てくれた。



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