Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30



「史也、ほらっ無理すんなって」




そう言って、悧羅の制服に身を包んだまま
アイツを支える聴きなれた声。



確か……同居人の若杉さん……。




俺は思い切って、
二人の前に足を踏み出す。






「史也さん……」

「君……」


そうやって声をかけるものの、
アイツからの返事はなくて、
代わりに若杉さんが声をかける。


「すいません。

 御迷惑かもって思ったんですけど、
 どうしても史也に逢いたくて
 押しかけてきました」


そう言いながら、頭を下げる。



「悪いけど、史也の逆側支えてやってよ。
 こいつ今日はもうフラフラでさ。

 寝てろって言ったんたけど、
 病院に行くって聞かなくてさ」



若杉さんはそう言いながら、
俺を史也さんの傍に行きやすいように
誘導してくれた。




「史也くん……知成君……
 知り合いだったの?」

「あっ、史也の後輩なんですよ。
 エレクトーンの」




若杉さんがそうやって続けると、
看護師さんは「本当だったの?」って
ようやく信じてくれたように呟いた。




だから、言ってんじゃん。
俺、最初から。





「先に病室行ってて。
 後で、先生にも言って貰うから。

 史也くん、あの後も無理したんでしょ」




看護師さんはそんなことを言いながら、
自分の仕事へと戻っていった。




「あぁ、史也の小父さん、この廊下真っ直ぐ行った突き当りの部屋に居るんだ。
 プレートにかかってる名前も別のものだから」




そんな話をしながら、
史也さんを抱えて、病室へと辿りつくと
親父さんの姿が見えるソファーへと
史也を座らせた。



「小父さん、こんにちは。
 今日は、史也の後輩が来てくれたよ」



若杉さんは、何時も付き合っているのか
手慣れた素振りで、史也の父親の傍へと近づいて
会話をする。


会話って言っても、
相手の返事がない一方的な会話。




「聞こえてるの?」




俺は思ったままに問いかける。




「どうなんだろう。

 聞こえているかどうかは僕にもわからないけど、
 史也も俺も、目覚めてくれるって
 信じているけど」


そんな会話を小父さんのベッドの傍でやってると、
何時の間にか、ソファーに座っていたはずの
史也の体が肘掛の方に倒れていく。



慌てて史也の傍に行くと若杉さんは、
ソファーに寝かせると「君も来て」っと俺に声をかけて
病室を出て行った。




若杉さんについて病室を出ると、
そのままナースステーションへと向かって、
看護師さんに史也の事を頼むと、
俺を連れて、病院内の喫茶室に向かっていく。




その途中、悧羅学院の制服を来た少年と、
史也に良く似た、あの日、大きな車の中で見た
ウィルとか呼ばれていた奴とすれ違うと
若杉さんは静かにお辞儀をした。



「裕真最高総」

「知成、そちらは?」

「あっ、史也のエレクトーン教室の後輩です。
 名前は……」


そう言うと、
若杉さんは俺の方をじっと見る。



「あっ、初めまして。
 大田音楽教室で史也さんにお世話になってます。
 泉貴秋弦です」

「泉貴くん……
 あぁ、史也の噂の主ね……」


最高総っと呼ばれていたその人は、
意味ありげに呟く。


ってか、俺は自己紹介させられたのに
そっちはないのかよ。


そう思ってたら、
若杉さんが、
お辞儀をしてから俺に向き直って伝えた。




「こちらは伊舎堂裕真【いさどう ゆうま】さん。
 俺たちの学院の頂点にする存在。

 んで、裕真最高総の隣に居るのは史也の従兄弟ウィル。

 あっ今、史也ソファーで意識落としたばかりだから」



そうやって付け加えると若杉さんは俺を連れて
予定通り喫茶室へと移動した。
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