Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
私から史也くんの存在を恋人候補から取り除いたら、
秋弦しか、本当は残ってなかった。
誠記さんも凄く優しかったけど……
あくまで、お兄ちゃんが居たらこんな感じかなって
そんな風にしか思えなかったから。
「秋弦、ただいま」
そうやって、アイツに向かって声をかけると、
アイツはいつもの調子で切り返した。
「あぁ、お帰り。
まぁ、お前がそろそろ帰ってくるのは
わかってたけどな」
そんな風に微笑みながら私の体を抱きしめた。
「よしっ、先生も奏音で充電した。
んじゃ、久しぶりにミニコンサート言ってみるか。
お前ら、奏音の生演奏ただで聴けるぞ。
勉強しろよ。
そして先生に感謝しろよ」
なんてめちゃくちゃな会話をしながら、
子供もたちを一番大きなレッスン室へと連れて行く。
秋弦のペースにはめられて私は鞄から、
いつも持ち歩いてるデーターを手にして、
エレクトーンに読み込ませる。
「んじゃ、奏音。
こいつらに聞かせてやってよ。
お前が今も尊敬してるエレクトーンプレーヤー、
蓮井史也の大切な曲。
史也がお前にだけ編曲を許可して承認したあの曲を」
秋弦に言われて私は小さく頷いた。
何度も何度もいろんな曲を演奏したけれど、
この曲だけは、私の中で特別。
この曲をベースに幾つものレジストを作って
いろんなアレンジで演奏してきた。
だけど……あのコンクールで演奏した時のレジストで公の前で演奏したのは
あれっきり。
だけどあの時のレジストを今の私なら、封印を解けるかもしれない。
あの頃の想いをそっと昇華しながら。
シーンと静まり返った教室内、深呼吸してゆっくりと
鍵盤へと手を向ける。
ボタン操作をしてリズムシーケンスがスタートすると、
目を閉じて、その世界へと想いを馳せる。
史也君がお父さんの為に作った応援歌は私から史也君への応援歌でもあり、
今この曲を聴いてくれてる人達へと応援歌。
私が沢山支えて貰ったみたいに、この曲で私が誰かを支えられたら嬉しい。
史也君から受け継いだもの全てをこの一曲に委ねるように。
演奏を終えて、ゆっくりとエレクトーンから立ち上がって生徒たちにお辞儀をすると
教室内の生徒たちが沢山の拍手をくれる。
「ほらっ、お前たち。
先生の生徒で良かっただろ。
奏音、久しぶりにあれやらないか?」
「あれっ?」
「教室の生徒たちと一緒にリレー即興」
「いいわよ。
だけどその前に、秋弦を試してあげる。
音列即興なんてどう?」
「おいっ、お前たちちょっと先生、奏音に喧嘩売られたわ。
売られた喧嘩は買わないといけないよな。
リレー即興の前に、10分間くらい時間貰えるか?
ちょっと奏音と一勝負させてくれ」
秋弦は教室の生徒たちにそうやって会話をふる。
何が喧嘩よ……ったく、変わんないんだから。
「先生ー、音列即興って何?」
「あぁ、音列即興わかんなかったかな。
グレード試験で2級をとるようになったら、お前たちも勉強しないといけなくなるぞ。
今からお前たちが、音を選んでくれ。
とりあえず5つ。
その5つの音をベースに、先生と奏音が即興で演奏して行くからな」
秋弦がそう言うと、生徒たちは何かを話し合って、5つの音符を声に出す。
「ファ」「シ」「ラ」「#ソ」「#ド」。