Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30


「よぉし、んじゃ奏音、お前からでいいよ」

秋弦にふられた私は、エレクトーンの音色ボタンとリズムボタンを触って
脳内に浮かび上がったイメージを形に作り上げていく。


まずはピアノのソロイメージで、メインフレーズを5つの音符の列を組み合わせて
作り上げると、そこからサックスやギター、ウッドベースをたして来て、Jazzテイストへと
変化させて動きをつけていく。


体内時計のカウントも5分ちょっと前。
そろそろかなと、最後にはブラスの音色へと変化させて演奏を終える。


「やっぱ、奏音流石だなー。
 けど俺も負けねぇから。んじゃ、はじめるか」


そう言って指をくるくると回すと、秋弦もまた同じようにボタン操作して
演奏を始めてくる。


最初の音色は、宇宙を表現しているのか、ストリングス系の壮大な音色。
そこにリズムが加わって、少しずつ曲のイメージが変わってくる。

だけどそこに、誠記さんが得意とするリズム演奏が織り交ざってくる。
幾つかのリアルリズム演奏のパフォーマンスが入った後は、
再び壮大な演奏へと姿を変えていく。



そんな秋弦が5分を過ぎる頃に、私の方に視線を向けてくる。

その視線は挑発するように、一緒に入って来いよっていうメッセージもあって
私はボタンを操作して、秋弦の即興に寄り添うように自分の音色を重ねていく。



その後も約3分くらい秋弦とデュエット即興をして演奏を終える。


「先生、凄ーい」

「先生もっと頑張らなきゃ。
 奏音先生の方が上手かったよー」


などなと生徒たちの感想を聞いて、私も遠い昔を思い出す。
この教室に来たばかりの頃、史也君と誠記さんの演奏を聞いて胸が震えたみたいに。



「よし、それじゃお前たちも準備始めろ。
 今回のリレー即興は奏音にも入って貰うからな。

 んじゃ、今日は立花から左回りで、ラストが奏音ってことで宜しく。
 準備出来たところで、立花始めていいぞ」


秋弦が言うと、立花さんと呼ばれた女の子はトランペットをリードボイスに選んで
最初の二小節を演奏してくる。

トランペットのソロから、次の子がリズムを加えて発展。
そのメインメロディーをアレンジしながら、次々と世界が変わってくる世界。


秋弦の演奏の二つ前で、メインフレーズが転調していく。

転調をしてくるのは、秋弦あたりだと思ってたのに、あの男の子やるじゃない?
その転調を受けて、自分の中の音作りを変化させていく。

そして秋弦の演奏。
秋弦は案の定、リアルパーカッションへと繋いで、そのリアルパーカッションのリズムに
私は乗っかるように即興をまとめていく。

あの頃の史也君がそうだったように、この全てのメロディーをしっかりとまとめて完成させるように。


15分ほどの演奏を終えると、生徒たちから沢山の拍手が湧き上がった。
私も教室の皆に、拍手を送る。



「お前たち、今日はいい感じで演奏してたな。
 中野君はもう少し、リズムを焦らずに選ぶのがいいな。
 例えば、このフレーズ。
 中野君の演奏はこうだっだろ。
 
 だげど、先生はこう言うアレンジの仕方もありだと思うんだ。
 可能性は一つじゃない。変化は無限大」


そう言いながら秋弦が演奏していたフレーズのコード進行で、
私はようやく一つの結論に辿り着く。


中野君の演奏、私の演奏スタイルに似てるんだ。


「奏音、お前もさ少し演奏してやってよ。
 中野君が演奏したこのフレーズ」

ふいにふられた秋弦の言葉に、私はアイツが伝えようとしてる意味を受けて
演奏する。


一番私らしいスタイルでの演奏。
そして大好きな史也君を追いかける意味でのアレンジ。



「あれっ……。
 奏音さんと同じように演奏したのにどうして?」


中野君は戸惑うような表情を見せる。


「中野君って言った?
 私も昔は同じだったんだよ。

 私も大好きな演奏者のイメージから、
自分のプレイが抜け出せなかったの。


私が尊敬してるエレクトーンプレイヤーの一人に蓮井史也って言う人がいてね。
史也君に出逢ったからエレクトーンを知って、今の未来がある。

 中野君が私の演奏を好きだって思ってくれるのは、さっきの演奏で凄く伝わってきたよ。
 だけど中野君は中野君で、私は私なの。

 中野君が知ってる私だけが、私の演奏じゃなくて、さっきみたいな演奏も私は出来る。
 さっきの演奏も私の一部で、中野君が演奏したような癖を持つ私も私の演奏。

 真似っ子は成長するためには大切なことだと思うから、吸収できるものはどんどんすればいいと思う。
 だけど、真似っ子で終わらせないで。
 
 その中に自分らしさのエッセンスを盛り込んでほしいの。 
 頑張ってみて」


泣きそうな顔になってた中野君はそう告げた私の後に、
まだぎこちない笑顔を見せて頷いた。


 
一時間の教室の後、生徒たちを見送って久しぶりに秋弦との時間を過ごす。



アイツが淹れた珈琲を飲みながら、マジマジと秋弦を見る私。

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