Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
「なんだよ。奏音」
「別になんでもない。
ただ久しぶりだなって思っただけ」
「なぁ奏音。アイツに史也に逢いに行かないのか?」
秋弦の言葉に視線を遠くに向ける。
何時かはもう一度あって、今の私を見て欲しい。
だけど同時に会うのは凄く怖くて不安。
「行きたいけど……行けないよ」
そう言ったのと同時に、ドアが開いて誠記さんが姿を見せる。
「おぉ、お二人さん久しぶり。
大田先生は?」
「ご無沙汰してます。誠記さん。大田先生も美佳先生も今レッスン中で。
今、珈琲いれます」
そう言うと秋弦はソファーから立ち上がって、すぐに誠記さんの珈琲をテーブルへと用意する。
「おっ、サンキュー。
それよりさっき、史也がどうこうって話してたよな。
明日、俺はアイツの様子見に顔出す予定だけどお前たちも来る?」
誠記さんの突然の言葉に私は思考がフリーズする。
「俺、行きたいです。
アイツに次の新曲の感想貰いたいんですよね。
誠記さんも後で、率直な感想教えてくださいよ」
「んじゃ、明日決定だな。
8時半から9時の間に、多分アイツと会えるだろうから
その頃に鷹宮の教会で」
トントンと話が進んで、私も明日秋弦と誠記さんと一緒に鷹宮に行くことになってしまった。
その後は、大田先生との打ち合わせも、誠記さんとの打ち合わせも身が入らない。
ミーティングを終えて教室を後にすると、秋弦と初めて居酒屋に立ち寄る。
晩御飯も兼ねてお酒や食事を終えた頃にはちょっぴりほろ酔い気分。
火照った体を覚ますように、街の中をぶらぶらと歩く。
無意識に辿り付いた場所は、史也君や誠記さんたちが暮らすマンションの前。
「ってお前さ……逢いたいなら素直になれよ」
「逢いたいも逢いたくないもどっちもなのよ。
だけど……史也君を感じられる場所は懐かしい」
「俺はとっとと、ケジメつけて俺んとこに来てほしいんだけど。
俺は今も奏音が好きだ」
「うん。知ってる。
私が家のいない間も、うちのお母さんがいろいろ面倒かけてたってことも知ってる」
「おばさん……そんなことまで話したのかよ」
そう言いながら秋弦は照れたように、そっぽ向いて髪をかく。
「だったらお前は何を迷ってんだよ。
教室で行ったじゃん。生徒たちの前で、ただいまってさ。
それじゃダメなのかよ?」
そう言ってくれた秋弦の優しさ。
だけどなかなかその胸に飛び込めない。
「秋弦、有難う。
今日はもう帰るよ」
そう言うと、秋弦は逃げようとする私を捕まえるように
タクシーをとめて、二人で乗り込む。
「家まで送る。
運転手さん、とりあえず前園2丁目の交差点まで」
そう言うとタクシーの中、無言が広がる。
車窓から流れる景色を見つめながら、
私は目を閉じる。
私は秋弦が好き?
好きか嫌いかと言われたら多分好きなのだと思う。
だけど勝手なことばかりして、秋弦に縋るなんて
アイツを利用してるみたいで受け入れられない。
「ほらっ、奏音自宅についたぞ。
んじゃ、明日の朝、車で迎えに行くから。
寝坊すんなよ」
そう言うと私がタクシーを降りて玄関に入ったタイミングで、
アイツを乗せたタクシーが動き始めた。
久しぶりに自室のベッドに体を伸ばす。