Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
そこから……私と憲康の時間はゆっくりと始まった。
憲康は私がエレクトーンに少しでも馴染みやすいように、
足鍵盤の練習方法とか、編曲のやり方を教えてくれた。
そして彼が演奏するときに、私もアンサンブルのピアノ譜を演奏したり、
彼がクラシックの曲をエレクトーン用にアレンジする際に、
ピアノ用のその曲を演奏したり。
その場限りで忘れられてしまうって思ってた運命の出逢いは、
その後も私と憲康の時間をずっと繋いでくれた。
そんな私と憲康の「恋」をジャズテイストに託した
新しいオリジナル曲。
後もう少し。
音も構成も形になってまとまっているのに、
何故かまだ気に入らない。
エレクトーンの演奏をやめて、
隣のアップライトピアノの前に腰掛けると
私は出逢った時に演奏した、パガニーニの第六番を演奏する。
するとふいにガチャリと重たいドアが開く音がした。
「美佳、ピアノ弾いてたんだ。
久しぶりだな。パガニーニの六番」
「でしょ。
なんか昔を思い出しちゃったら急に演奏したくなってさ」
そんな会話をしながら、その演奏の手を止める。
「奏音ちゃんの練習は終わったの?」
「あぁ、今日の練習は無事に終わったよ」
「ねぇ……史也の一件があった後も、
あの子は頑張ってるよね」
「そうだな。
頑張ってると俺も思うよ。
誠記も凄く手助けしてくれてて、
奏音ちゃんにらしい表現力も少しずつ表に出るようになってきた」
「だったらよかった。
今までの奏音ちゃんの演奏は、史也が大好きだって凄く伝わってきたけど
それどまりで感動は届けられなかった。
だけど……それだけじゃいけないから」
「美佳もその辺りは痛い目、見たからな。
俺なんかの演奏に惚れ込むから」
そう言って悪戯な笑みを浮かべる憲康。
「仕方ないじゃない。
出逢っちゃったんだもん」
「まぁな。
けど本当はあの日、俺が藤宮に演奏に行く予定じゃなかったんだよな。
俺の師匠が行くはずが、師匠が肺炎で入院して急きょ代理だったからな。
でも……その運命に感謝してるよ。
なぁ、美佳。
今日はもうレッスン終わりだし、少し出掛けないか?」
そう言って憲康は私が触っていたエレクトーンの電源を落として、
蓋を閉める。
「いいわよ。
付き合ってあげる。
その代わり、晩御飯奢ってよね」
そんな可愛げのない言葉を呟いてみる。
「よしっ、決まり。
んじゃ、戸締りして俺の車な」
そのまま憲康は教室を出て行って、順番に戸締りを確認していく。
私も受付カウンター内の業務を完了させて、
明日のレッスンがスムーズに出来るように予定表を入れ替えて
事務所奥の金庫にお金を移動させる。
セキュリティーボタンを押して、ピーピーとボタンが鳴る中
慌てて教室から飛び出して鍵をかけた。
「お待たせ」
「お疲れさん。
さっ、どうぞ美佳」
助手席のドアを開けられて、
私はエスコートされるように車内へと乗り込む。