Last present ~夢を繋いで~ ※Episode2&3追加5.30
「遅くに悪い」
「お前は今帰り?」
「まぁな。もうすぐ国家試験だしな。
対策していかないと」
「大変だな。
まぁ、少し上がって行けよ。
今日は若杉は?」
「知【とも】は今日は妹の誕生日だからさ。
こっちには帰ってこないし、珍しく時間出来てさ」
そう言うと史也は久しぶりに俺の自宅へとあがる。
史也と大田音楽教室で一緒にやってた頃は、
お互いの部屋の行き来は多かったけど今は殆どない。
「誠記の部屋、いつの間にかスタジオになってるんだ。
しかも懐かしい、これ奏音の音だろ」
そう言いながら、史也は懐かしそうに画面の彼女を見つめる。
彼女はずっとコイツに憧れ続けてた。
いつもポーカフェイスを崩すことなく、表面上はにこにこと笑みを浮かべ続ける
コイツが、彼女にはいつも剥き出しの心を晒してた。
その度に傷ついて逃げ出そうした奏音ちゃんに
俺は手を伸ばし続けてた。
愛しいと言う想いを殺したまま。
「史也も少し食べるか?
由美花がサンドウィッチ作ってくれてたんだ」
「サンキュ」
テーブルにサンドウィッチと珈琲を並べて、
二人して画面の彼女を見つめる。
「誠記、お前……ずっと言わないのか?」
ふいに史也が紡いだ言葉に俺は黙って頷いた。
「そうか……。
お前が決めたなら口出しはしない」
史也はただそれだけ小さく呟いて、
また画面の中の彼女を見つめた。
秘める想いは……
今も当人には伝えることのないままに……。
彼女が幸せを掴むその日……
俺の恋が終止符を打つことを知りながら、
今はただ、彼女を見守り続けたくて。
END