シンデレラの結末
第一章
1
「立候補いるか?…推薦でもいいぞ。」
「はーい!タケがいいと思います!」
タケちゃんを推薦したのはクラスのキラキラ系一軍女子の一人、立川さん。
「どうだ?やってくれるか?」
「っしゃ、やるかー。推薦したからには立川練習来いよな!?」
「わかってる!タケが団長ならいくってば!」
クラス中がヒューなんて冷やかす。
どうやら立川さんは、タケちゃんのことが好きらしい。
「じゃあ応援団長、後任せたからな。」
決めていたのは6月の頭にあるクラス対抗球技大会の応援団長。
私もタケちゃんがやると思ってた。
タケちゃんはめんどくさそうに、でも楽しそうに前に出た。
「ほんじゃ、応援パフォーマンス何やるか決めまーす!案あるやつー!」
「チアガール見たいでーす!!!」
わかるわーと言って黒板に書き出す。
立川さんたち一軍女子グループはえ~!と言いつつもまんざらじゃなさそう。
「他は?……なさそうならチア全員でやることになりますが?(笑)」
「どうなったらそうなるんだよ(笑)」
「でもありじゃね、面白そう!」
タケちゃんが発する言葉には、魔法がかかってる。
タケちゃんが話すときは、みんな聞くし、クラスが笑いに包まれる。
「じゃあ今日から放課後ひまなやつ集まろ!女子衣装のこと任せちゃっていい?」
そう言ってチャイムが鳴る。
あーやだやだ。チアガールなんてやりたくない。
「女の子衣装作りのこと話合おー?」
立川さんの招集でクラスの女子が集まる。
「今週までには発注しちゃいたいんだけど、小笠原さんに任せてもいいかな?」
「え?私?どうしたらいいか…」
「ほら小笠原さん部活ないし!通販とかでいいの探して発注してくれればいいし、デザイン迷ったら相談してくれればいいし!お願いできる?」
「…わかった。」
「ありがとう!よろしくね。」
押しつけじゃん…。
でも断れなかった私も私。
今日のうちに探してみよう。
4月に高校入学して、1か月が経った。
けれどクラスに上手く馴染めなかった私は、友達と呼べる存在を作れなかった。
「優生?」
私の名前を呼んでくるのは幼馴染のタケちゃん。
タケちゃんは私を優生って呼んだり、優って呼んでくれる。
そう、友達はタケちゃんだけ。
「なに?」
「なんかあった?」
ええ、ありましたとも。
あなたが衣装を女子という大きなくくりに任せえるから、力のない私が衣装係になってしまったじゃないの。
「何も?」
「はい、ダウト~!!!!」
「うるさーーい!!!!」
「なんだよ~、タケ君悲しい。いじけちゃう~。」
「はいはい(笑)」
「なんだよ(笑)今日放課後参加でしょ?」
「やることできたから帰るよ。」
「そう?じゃあ一緒に帰れないけど気を付けてね。また明日。」
「うん、ありがとう!また明日。」
*****
家に帰ると早速パソコンに電源を入れて衣装を探す。
「青?赤?白?もう何がいいの!?」
思ったより種類が多くて困る。
安いやつ探せばいっか。
よし、決まったしコンビニでも行ってこようかな。
*****
「また明日って言ったよね?」
「優生じゃん。何買いに来たの?」
「お菓子。タケちゃんこそ何してるの?練習は?」
「今日は曲とか決めて終わり!腹減ったー。」
そのまま私はお菓子を買って、タケちゃんはおにぎり何個か買ってコンビニを出た。
家から一番近いコンビニ。
まぁ会って当然と言えば当然か。
タケちゃん家とうちはかなり近所。
「優、ちょっと公園寄って帰ろうよ。」
「いいよ。」
うちんちの裏にある公園。
ベンチにはカップルがいて気まずいから、ブランコに座る。
コンビニで買ったものを食べながら。
「優生、最近痩せたね?」
「え、うそ?」
「ほんと。受験でちょっとだけまるまるしてたの戻った(笑)」
「まるまるとか!つらいわ。自分で気づかなかった(笑)」
「まぁ中三なんで部活終わって太るよな。」
「そもそも私運動部じゃないんだけど(笑)タケちゃんは変わんなかったね。高校…部活はいらなくてよかったの?」
「んーバスケはもういいかなって。優こそ部活しないの?」
「んーしないかなぁ。」
「じゃあ…俺とバンド組む気ない?」
「バンド?」
高校3年生までバスケバカだったタケちゃんからバンドの提案をされるとは思わなかった。
「俺さ、バスケ部引退した後、兄貴からギターもらって弾き始めたらはまっちゃって。ちゃんと弾けるようになったら優生も誘ってバンドとかやってみたいなとか思っててさ。…どう?」
「どうって言われても…」
「優、吹奏楽部だったし楽譜は読めるんだろ?」
「読めるけど…」
「メンバーも他にあてができて、声かけてるんだ。同じクラスの真田くんと隣のクラスの近藤くん!!」
「えー私話したこともないよー?近藤くんにいたっては知らないし…」
「土曜日、俺んちに呼んだんだ。もしちょっとでも気になってたら、来てみない?」
確かにバンドは興味があった。
吹奏楽部に所属してたこともあって、音楽はまぁ…できる。
でも不安は当然ある。
だけど、今はクラスで女の子の友達もできず、タケちゃんしかいない高校生活。
挽回するにはこれしかないと思った。
「…行く。けどちゃんとフォローして。」
「そりゃもちろんですわよ、優生ちゃん♪」
*****
家に帰ってから自分の貯金を見る。
私のこの少ない財産で楽器なんか買えるのだろうか。
「そもそも私はドラム?ベース?キーボード?」
タケちゃんがギターという情報しかない今、悩むのは無駄だと思った。
あー明日も学校。
立川さんたちに衣装を頼んだこと、報告して集金しなくちゃ。
*****
朝はいつだって憂鬱。
今日も学校だなんて残酷だなんて思いながら登校する。
「優生?」
振り返ると寝癖だらけのタケちゃんがいた。
「頭すごいけど。」
「朝一発目の言葉はおはようっていうの義務化しようぜ。」
自然と一緒に登校する。久しぶり。
いつもはタケちゃんが遅刻ギリギリだから、別々で登校している。
学校の近くになれば、タケちゃんはいろんな人から声をかけられる。
入学して一か月でこんなに友達ができるなんて、私とは大違い。
「タケじゃね!?珍しく朝早いな(笑)」
「いや、朝一発目はおはようだから!!(笑)」
時々タケちゃんがうらやましく感じる。
クラスで一人ぼっちの私とはやっぱり大違い。
…そうだ、このネガティブはやめよう。
「この子タケの彼女??」
「幼馴染だよ。」
「ちっこいな、何ちゃん?」
「ゆーきだよ、小笠原優生。この子人見知りだからパパ心配でもう~。」
「なにキャラだよ、お前は(笑)」
タケちゃんと同じくらい背の高い男の人。
自分の名前すら言えない、人見知りの私をフォローしてくれるタケちゃん。
結局その人も一緒に教室の近くまで行ったけど、私とその人が話すことはなかった。
*****
授業中、気になるのは話したことがない真田くん。
授業…寝てる。
私も一緒にバンドやること、知ってるのかな。
今日の授業終わりのチャイム。
とうとう立川さんに話しかけられずにここまで来てしまった。
放課後の応援練習の前に話しかけたい。
今しかない。
「た、立川さん…!」
緊張のあまり声が裏返る。
恥ずかしい。
「どうしたの?」
「あ、あの、チアの衣装、昨日発注したの。」
「早いね!ありがとう!小笠原さんに頼んでよかった!私たちで集金声かけてみるね?」
「ありがとう!一人2600円なんだけど…」
「わかった!来週まででいいかな。」
「うん!」
話してみれば話せるじゃん私。
きっときっかけがなかっただけ。
今までなんだかギラギラしたイメージのあった立川さんも普通に話してくれた。
「みんな~!衣装発注したから、お金今日払える人お願い!」
集金も押し付けられると思ってた。
案外優しい人なのかも。立川さん。
*****
放課後になるとチアの練習が始まる。
曲はアヴリル・ラヴィーンのガールフレンド。
みんなでチアを踊って、最後男子が三重の塔を作るらしい。
ダンスの動画を見ながら、手に持つボンボンを作る。
作りながら始まるクラスの会話の中心はいつだってタケちゃん。
「三重の塔、てっぺん誰行く?」
「サイズ的には…お前じゃね?(笑)」
「おいサイズ的にはゆーな(笑)」
「女子乗っけたら?軽く済むぞ」
「それお前パンツみたいだけだろ(笑)」
「やだー!もうタケサイテー(笑)」
「冗談冗談(笑)汚いもの見る目でボクヲミナイデー」
「んで、誰のる?」
「もータケでいいじゃん。団長でしょ?」
「おい、立川、お前俺が高所苦手って知ってて言ってんのか(笑)」
結局てっぺんはタケちゃんになったらしい。
*****
「んじゃまた明日!優生、準備できた?」
「うん。」
練習が終わりみんなで解散する。
朝と違って、帰りは基本タケちゃんと一緒。
「ねータケ。この後、二人でカラオケ行かない?」
「あーわりぃ、今日は…また今度行こうな!!」
「……小笠原さんと帰るってこと?」
立川さんの表情が曇る。
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