シンデレラの結末

「彼女じゃないんでしょ?…送らなくたって帰れるじゃん。」
「そ、そうだよ!行ってきなよタケちゃん!」
「…悪いな、それと別にやることあんだ。成瀬達とかと言って来いよ!また来週な!」
「…うん、またね。」

曇っていた立川さんの表情が、一瞬だけすごく凍って見えた。
それからの帰り道は、タケちゃんは何もなかったかのように変わらなかった。
けど私には立川さんの表情が忘れられなかった。

「って優生聞いてるー?」
「う…あの…ごめん。」
「…立川のこと、だよな?悪い。ちゃんと優生とは違う用事!って伝えきれなかったな。」
「ううん、大丈夫!…で何?」
「あー明日、13時に俺んちって。」
「わかった!緊張してるけど…ちゃんといくから!!」
「よかったよ。じゃあまた。」
「うんまた明日。」

私の考えすぎで、タケちゃんに心配かけたくない。
忘れて明日のことを考えよう。

*****

行くといってしまったものの、どうしよう。
初対面の人二人と会うなんて。
しかもこれからバンドを組もうとしているなんて。
歓迎されなかったらどうしよう。

当日になって押し寄せる不安。
でも行くって言っちゃったし、タケちゃんだっている。

「…よし。」

扉を開けると…真田くん…?
驚きのあまり何も発せない。
長い沈黙が続き、それは真田くんによって途切れた。

「この住所知りません?」

え…と私って気づかれてない?
そもそも真田くんは私のこと知らないのか?
どんだけ影薄いんだ、私。

真田くんが持っている紙の住所は✕✕町のところまでうちと同じだった。
さすがに人の家の番地まで覚えているわけないけど、今日タケちゃん家集合だし、そうだよね?

「あ、と、わかります!私も今からそこ行くので…よかったら!!」
「お願いします。」

それからお互いに何も話さなくて、いつもは近い約一分の距離が、今日は少しだけ長く感じた。
はやくタケちゃん出てこないかな。
気まずさのあまり、ついた瞬間にインターホンを鳴らす。

「あれ?二人で来たの?」

そんなわけはないけど、すっとんきょんな言葉も何でも今は救い。
中に入ればいつものタケちゃん家で安心する。
タケちゃんの部屋に行き、テーブルを囲むように座るとインターホンが鳴った。

「近藤きたか、出てくる。」

そう言ってまたタケちゃんが出てくとまた沈黙が始まり急に緊張感が走る。

「…君もバンドのメンバーなの?」

そしてまた真田くんの言葉で沈黙が途切れる。

「は、はい…」

まだ楽器もできないんですけどね。
そして戻ってきたタケちゃんと一緒に入ってくる近藤くん。

「あれ?かわいこちゃんがいる。」
「はい、逮捕。うちの子に手は出させませーん!!」
「彼女?」
「いや、しいていうなら愛娘?」

人見知りが発令し、黙り込んでしまう。
そこに上手く入るのがタケちゃん。

「んじゃまぁ、そろったわけですが、それぞれには話してあるんだけど、これが俺が集めたバンドメンバーです!!」
「「「…………」」」

ざっくりすぎて三人は口をぽかんと開けたまま、タケちゃんを見る。

「…突っ込みどころありすぎじゃない?」

また沈黙を破るのは真田くん。

「まぁまぁ!!自己紹介しちゃえばおさまるって!!(笑)はい、真田くん!!」
「え…と、ドラムの真田ミチルです。」
「ハイ次近藤!!」
「ギターの近藤響です。」
「ハイ次!!!」
「えっと、あ、の、優生…、小笠原優生です。楽器は…えと…」
「優生にはこれから楽器選んでもらおうと思って!!!!俺は、タケって呼んでください!ギターです!!」

楽器を選ぶというか…もうベースなんじゃないかな…
タケちゃんってバンドを知らないのだろうか。

「小笠原さんはど素人ってこと?」
「はい、ごめんなさい…」
「なんで謝るの?」
「え、あ、ごめ…あ。」
「ちょいちょい、真田くん女の子には優しくするのが男だぞ。な、タケ?」
「そうだぞ、真田くん。娘に優しくできない人はパパが怒っちゃうぞ。」

*****side Michiru Sanada

どうやらこのバンドのメンバーは、タケ君がバンドをやりたいがために経験者をテキトーに集めただけのバンドらしい。
タケ君はクラスでもムードメーカー。
なんかいい奴そうだし、前に組んでたバンドは解散したしちょうどいいかなって乗っかってみたけど…
タケ君はバカなんだろうか。
正直終わりしか見えない。

近藤君はいかにも女の子が好きそうな感じでチャラくて、僕と合うとは思えない。
だけどタケ君のバカさを上手くまとめてくれそう。

案外バランスが取れているんじゃないだろうか。
…この子をのぞいたら。
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