シンデレラの結末


ライトがまぶしく俺たちを照らす。
さなのカウントが始まる。

俺たちは、もう戻れない。
響のギターと、優生のベースと、さなのドラムと、俺のギターが交じりあう。

聞こえてくるのは、俺たちが作る音楽と、声援だけ。

*****

「…シンデレラストーリーってほんとにあるんだね。」
「どうしたの?さなちゃんらしくないね。」
「このオファーが来たときから思うんだ。全部夢なんじゃないかって。」

「そんなことより、うちのメインボーカルが死んでるんですけど?」
「し、死んでねえよ…ただ…緊張というか、まだ実感わかなくてフワフワしてる、みたいな。」
「私もだよ。だけど不思議と緊張しないの!!初めて体育館のステージに立った時はあんなに緊張してたのに。」
「ほら、行くぞ。時間だ。」

*****

〇月✕日、某大ホールにて、映画の試写会が行われた。

人気漫画の実写映画化。
ごく普通の高校生が、夢をかなえ女優になるというありふれたシンデレラストーリー。

その映画の主題歌に選ばれたのが、僕たちThe Milktea Compauyの「aloud」だ。

今日、その試写会で公式デビューする僕たちは、事務所の人たちから「必ず有名になる」と宣告されいた。

今までにもこうして映画がきっかけで有名になる人はたくさん見ていたし、先に始まっていたアニメ化も今、爆発的な人気らしい。
そして僕たちは、主題歌が決まって、公式に発表された日から、少しずつ注目を浴びつつある。

*****

「主題歌で登場していただきましょう!!The Milktea Companyの皆さんで「aloud」です!!!」

ライトがまぶしく俺たちを照らす。
さなのカウントが始まる。

俺たちは、もう戻れない。
響のギターと、優生のベースと、さなのドラムと、俺のギターが交じりあう。

聞こえてくるのは、俺たちが作る音楽と、声援だけ。

さぁ歌え。

*****

拍手に包まれ僕たちはデビューした。

誰一人としてミスすることなく終わった初演奏。
僕らはこの日のデビューのために、音楽番組には出られず、周りの待ちわびる声を聴いているだけだったが、ついに。
明日からは、音楽番組の収録、雑誌の取材…忙しくなるのはもうわかっていた。

「みなさん初めまして~!!!!!僕たちがThe Milktea Companyです!!!!!」

タケ君のあおりで始まったステージは今までの小さなライブ会場とは形も人も全く違って、これがプロかと思ってみたりもした。

見事なまでに分かり切っていた”成功”を手にした僕たちのシンデレラストーリーが幕をあけた。

*****

「4人ともお疲れさま。明日は言っていた通り、忙しくなるわよ。今晩はホテルに泊まって、明日は朝から音楽雑誌の取材と音楽番組の収録、握手会の打ち合わせよ。」
「デビューの次の日からそんなに仕事入ってるのか!??」
「何言ってのよ、タケ。これでも新人だからと思って、減らしてあるんだから。」

マリエさんが運転する車に乗ってホテルにつくと自分たちでは泊まったことない大きなホテルに4人で恐る恐る入っていく。

「響とタケとさなはこっちの部屋、優生はこっち。外出は厳禁よ、コンビニもね。私は向かいの部屋にいるから、何かあったら呼んでちょうだい。」
「げ、私だけ別!!!??」
「当たり前でしょ。嫌なら僕と交換する?タケ君は寝相悪くて嫌なんだ。」
「さな。もうそんな狭い部屋じゃないみたいだぜ。」

響君が開けた部屋は、綺麗で白くて高そうな…ボキャブラリーがない私にはそうとしか言いようがないけど、本当にそのままの意味でいい部屋だった。

「優生もいつまでも甘えてるんじゃないわよー。これからはバンドの仕事も一人の仕事もたくさんあるのよ。一人でできるようになりなさい。」
「…はい。」

マリエさんの言葉はいつだって厳しい。
だけど、背中を押してくれるような…そんな厳しさ。

マリエさんにスカウトされて本当によかった。

*****

疲れにつかれた私は、部屋に入るなり、お風呂に入る。
あぁ本当に広いお部屋。
お風呂だって。

出てから開いた携帯にはタケちゃんからメッセージが入っていて、それ以外にも友達からたくさん連絡が入っていた。
お母さんは…見てないか…。

<テレビ見たか?すごいぞ。>

言われるがままにテレビをつければ、ニュース番組で取り上げられている自分たちの姿。
恥ずかしいような、嬉しいような…

「やっぱり一人じゃいられない!!」

そう言って部屋を飛び出したのは、寂しかったのではなくきっと興奮していたんだと思う。

*****

コンコンと叩かれたドアは恐る恐る空いた。
誰だかは大体予想ついている。

「優生?」
「タケちゃん、響君。…さなちゃんは?」
「歯ブラシ忘れたから、コンビニって言いにマリエさんのところへ。」
「アメニティは?」
「嫌なんだってさ。」

少ししてさなが戻ってくる。

「早かったな。」
「行ったところで外には出してくれなかったよ。マリエさんが言ってくれた。」
「まだ有名人なんて自覚ないのに…なんでそんなに厳重なんだろうね。」

部屋のテレビはもう一度、俺たちの報道へと変わる。
明日はどんな一日になるんだろう。

「で、優生ちゃんはどうしたの?」
「やっぱり眠れないよ、なんか…もう一人で興奮しちゃって!!!」
「まー大胆なこと❤」
「ちーがーうー!!!!」

「…とりあえず乾杯でもしておく?」

結成したあの日も飲んでいたミルクティをグラスに入れ、俺たちは乾杯をした。
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