この恋、賞味期限切れ
たったふた文字でも、あたしには、空を飛ぶより難しい。
「あれ? 晴ちゃん?」
「あ、憧子ちゃん……」
「何してるの?」
階段を下りると、憧子ちゃんと出くわした。
ドクン、と胸が軋んだ。
今は憧子ちゃんに会いたくなかった。
今だけは、会いたくなかった。
友だちなのに……ううん、だから、顔を見たくなかった。
大好きな友だちのことを、きらいになってしまいそうで。
「せ、先生に資料を運ぶよう頼まれちゃって」
「まーたあの担任、生徒パシらせておいて自分はサボってんの!? ひっどー」
まるで自分のことのように怒って、あたしの腕からプリントを半分持ってくれる。
いつもそう。
憧子ちゃんは当たり前のように助けてくれる。
きらいにならせてくれない。
八つ当たりもできやしない。
大好きなんだもん。
憧子ちゃんちゃんも、……宇月くんも。
いっそあたしのことをきらいになってよ。
「晴ちゃん……?」
「っ、……な、なんでもない。あ、憧子ちゃんは何してたの?」
「英語のノートを忘れちゃってさ。それを取りに行くところだったの」
憧子ちゃんも、あたしと同様、部活に入っていない。
もう帰ったと思っていたけど、忘れ物して引き返してきたんだね。