この恋、賞味期限切れ
「そうだったんだ。ありがとね、運ぶの手伝ってくれて」
「いいよいいよ! どうせ家帰ってもひまだし」
教室に戻る途中だっただろうに、手伝ってくれる。
憧子ちゃんはお人好しだ。
他人を優先して、自分のことはあと回し。
これまで数えきれないくらい憧子ちゃんに助けられた。
今日持ってきたブラウニーだって、このあいだ日直を手伝ってもらってお礼だった。
あたしは憧子ちゃんに恩を返せているのかな。
うーん……できていない気がする。
自分勝手な気持ちばっかりだ。
「それにしても、今日から夏服だったけど、衣替えできてない人けっこういたよね。舜ちゃんなんか指定のシャツすら着てなかったし」
「そう……だね」
「明日には全員夏服かな」
「夏が迫ってる感じがするね」
「そうだね、もう夏かあ……。夏休みは遊ぼうね。絶対!」
「その前にテストがあるよ」
「晴ちゃん、それは言っちゃだめ。テストなんて忘れよう」
「ふふ。でもあと一ヶ月ないよ?」
憧子ちゃんと話していると、嫉妬が消えていく。
このまま、なくなれ。
また焼いても、また消す。
そこには何もなかったみたいに。
だからね、憧子ちゃんには、この気持ちを明かさない。
きっとそれが、正解。
正しい答えかはわからなけれど、あたしにとっての“正解”はそうだった。
教えなければ、好きな人を応援できる。
……応援できる、けど。
宇月くんは気づいているのかな。
憧子ちゃんの想いに。