君に届けた春風
奈津が高屋に告られた翌日の昼休み。
校内の花壇前に座り、奈津はあかねに高屋から告られた事を話した。
あかね「え〜!!高屋、告ったんだ…」
奈津「うん…」少し頬が赤くなる。
あかね「で?返事した?もちろんイエスでしょ?」奈津の顔を覗き込みニヤつく
奈津は首を横に振った。
奈津「まだ。返事してない」
あかね「え?なんで?」
奈津「だって。こんな事初めてだし。高屋の彼女になるとか自信なくて。」顔を腕の中にうずめる。
あかね「奈津。長谷部が話してたんだけど、高屋は長谷部といる時、奈津の話をよくするみたいだよ。スピーチの後も、高屋はあのお嬢様といる時、俺の好きな人達をいじめないでくれって。あのお嬢様に頼んだってさ」
あかねは立ち上がり、スカートをはたく
あかね「高屋は、ちゃんと想いをぶつけたんだから、あんたもちゃんとぶつけな!」
奈津の肩にポンっと手を置いた
奈津「私…ちゃんと言えるかな…」
あかね「大丈夫!もし失敗したら、私がとことん付き合ってやるからさ」と。奈津の顔に近づきウィンクした。
奈津は少し気持ちが楽になった。
放課後。奈津は借りてた本を返しに図書室に行った。
奈津はカウンターに本を返した後、高屋と前に待ち合わせした場所を思い出し。奥の本棚に行った。
高屋があの時見ていた本を何となく気にする奈津。英和辞典の横にピンクの小さな紙が挟まっていた。
奈津はその紙を取り出す。
それは、手紙でなく紙袋。紙袋に「水月へ」と書かれていた。
中に何か入っている。奈津は袋から中身を取り出した。
中身は、高屋と一緒に買い物に行った日。奈津が気になって見ていたイルカのキーホルダーだった。
奈津は、急いで高屋に会うために教室に戻った。他の人達が帰る支度をしている。
教室に数人で集まって話している男子がいた。
奈津はその男子の中に飛び入り
奈津「あの…高屋。知らない?」
男子A「高屋?今さっき帰ったよ〜」
男子達がヒソヒソ話す声も聞こえず、奈津は走って外へと向かう。
高屋が通って行く道を走って駅へと向かった
改札を通り、高屋が乗る下り方面のホームへ降りる。
高屋が電車に乗ろうとしているのを見つけ、奈津は必死に走った。
高屋が電車に乗ったと同時に奈津は高屋の服の裾を掴んだ。
高屋は奈津が息切れして必死になって来た様子を察する。
奈津「ハァハァ…あの…あの…私。伝えなきゃって思って。図書室でこれ見つけて」
キーホルダーを出す
高屋「あ〜わかった?よかった。見つけてもらえなかったらどうしようかと思ってた」と。笑顔を見せた。
高屋「一緒に買い物付き合ってくれたから。そのお礼。あの時、おまえがそれ欲しそうにしてたから。こういうのが好きなのかな?って思ってさ」
奈津は高屋を見つめた
奈津「ありがとう。」
高屋「水月。それ言う為にわざわざ走ったの?」奈津の顔を覗き込む
奈津「あの…私。ずっと、高屋に助けられて…高屋がいてくれたから、あかねとも仲良くできて。高屋は本当の友達を教えてくれて。
なのに。私…高屋に何にもできなくて。
高屋がそばにいるとドキドキして。胸が熱くなって苦しくて…これが何なのかよくわからなくて。」奈津は改めて顔を上げ高屋を見る
高屋は真っ直ぐ奈津を見つめていた。
奈津「高屋!私は…私は…高屋が好き。大好きなの!」奈津は目に涙をためていた。
電車の発車ベルが鳴りドアが閉まる直前、高屋は奈津の腕を引っ張り、奈津を電車の中に引っ張りこんだ
奈津は高屋に引っ張られ気づけば電車に乗り、高屋の腕の中にいた。
電車のドアが閉まり。しばらく沈黙になる。
高屋「俺も…大好きだ」奈津を抱きしめ、奈津の耳元で言った。
奈津「電車…動いちゃった…」
高屋「ん。じゃあ、次で降りる?」
奈津「…やだ…」奈津は高屋の背中に手を回した
ガタン!ゴトン!ただ電車の音が鳴り響き窓から夕日が差し込んでいた。
奈津は高屋の最寄り駅で降り、しばらくホームのベンチに座っていた。
上り線に電車がくる放送が流れる。
奈津と高屋はもう時間だと目を合わせた。
高屋は奈津の唇にそっとキスをした。唇と唇が当たっている感覚が、奈津の心を春風のような温もりを感じさせていた。
奈津は、高屋と手を振って別れ、上り線の電車に乗って自宅へと向かった。
奈津は電車の中でまだドキドキしていて、夢のようだと感じていた。