君に届けた春風
大切なもの

奈津が高屋と付き合い始めて1ヶ月。

ある日の昼休み。

奈津はあかねと学生食堂で向かい合って、昼食を摂っていた

あかねは長谷部とラインのやりとりをして、嬉しそうにニコニコしている。


奈津「あかね。楽しそうだね〜」

あかね「ふふ〜ん。長谷部と、今度の日曜に映画行こって約束したんだぁ。奈津は?高屋とどんな感じ?」

奈津「ん…私、まだ彼女っていう実感がない」

あかね「実感ねぇ…」

奈津「うん…。私は、高屋の彼女にちゃんとなってるのか、よく…わからない」

あかね「なるほど。デートしてる?」

奈津「最近、高屋。バイト始めたみたいで、一緒に帰れないし、忙しそうにしてて…」

あかね「ん〜…。奈津はまだ見つけてないのか」どこか違うとこを見ながらボソっと言った

奈津は残った最後の一口を食べきり
奈津「え?何か言った?」

あかねは首を小刻みに横に振り、独り言だと言葉を濁した

昼休み時間の終わりが近づき、少しずつクラスに生徒が戻ってくる。
奈津とあかねは窓際に立ちグランドを眺めながら会話していた。
奈津「ねぇ?あかね」
あかね「何?」
奈津「あかねは、長谷部と付き合ってて不安とかないの?」あかねに目線を向け聞いた。
あかね「ん〜…。全くないって言ったらウソになるけど。お互いにちゃんとわかり合ってるから…その辺は大丈夫かな」
窓の外を見て、奈津に微笑む

奈津「いいなぁ。私も、そんな風にもっと自信もてたらいいけど…」少し俯く

あかね「奈津も大丈夫だよ。高屋とだったら、ちゃんと見つかるよ。大切なものが」
奈津に微笑んで言った。

奈津「大切なもの…?それって何?」
真顔であかねに聞いた

あかね「それを、自分で見つけるから価値があるんじゃん」そう言って笑い奈津の肩に軽く手を置いた。

奈津は、理解できぬまま席へと戻る。

高屋と長谷部は男子友達と笑い合って談話しながら教室に戻ってきた。

奈津とあかねは窓の外を眺める

あかね「ね?奈津」

奈津はあかねに振り向き話を聞いた

あかね「1度、奈津から誘ってみたら?高屋をデートに」奈津に微笑む

奈津「いや…でも」頭を傾げた

あかね「自分が進まないと、何も変わらないよ」奈津の肩をポンっと叩いた


奈津は、体の向きを変え高屋を見つめ、決意した表情をする。

奈津「あかね。私…言ってみる」
顔をあかねに向け言った

あかねはふっと笑みをこぼし、頷いた

放課後。高屋が1人廊下を歩き帰ろうとしていた

奈津はカバンを持って高屋を追い、廊下を1人で歩く高野の背後から服を掴む

奈津「高屋…」緊張で手が震えていた

高屋はそのまま立ち止まった。

奈津「あの…今度の日曜日…」

高屋は奈津に背を向けたまま耳を傾けた

奈津は軽く呼吸を整えた

奈津「今度の日曜日…デートして下さい」
奈津は、力強く目を瞑った。

高屋はそっと奈津の手を握り、振り返った。

高屋「どっか行きたいとこあんの?」
俯く奈津を見つめ、微笑んだ。

奈津は顔を上げ笑った

奈津「いっぱいある」満面の笑みで言った

高屋は口を半開きし鼻で笑った。

奈津は高屋と駅まで一緒に帰りながら高屋と行きたい場所を話していた

奈津「…でしょ〜それから…遊園地…それから…」指を折りながら行きたい場所候補をいろいろ言っていた

高屋は、奈津の候補を聞きながら呆れたが表情はどこか嬉しそうにしていた。

高屋と奈津は日曜日の11時に奈津の地元駅ホームで待ち合わせをし、手を振って改札口で別れた


そしてデートする日曜日。

奈津はおしゃれをして高屋が待つ駅ホームへと向かう。

高屋はホームのベンチに座り足を組んで携帯でゲームをしていた。

奈津は改札を通り駆け足でホームへ繋がる階段を下りた。

奈津は高屋の側に駆け寄り、高屋は奈津に気付きベンチから立ち上がり笑顔で迎えた

奈津は息切れしていた。

家から走ってきたからだ。

高屋と奈津は駅に入ってきた上り線に乗り映画館に行った。

映画を見終わった2人は、歩きながら映画の感想を言い合っていた。

その後もファーストフードに行って1つのポテトを2人で食べたり、いろんな店に立ち寄って商品を見たりした。

奈津も高屋も笑い合って楽しんでいた。

あっという間に時間が過ぎ、あたりは暗くなり始め、デートの時間も終わりに近づいていた

奈津は地元駅で電車を降り高屋と「また明日」と言いながら手を振った

奈津は少し寂しそうな顔をし俯いた。

高屋は奈津を見つめ「奈津…」小声で言った後
奈津の唇にそっとキスをして微笑んだ。

奈津は安心した笑顔を高屋に見せた。

電車のドアが閉まり動き出す。

奈津は高屋を乗せた電車を見送った。

奈津は少しだけ、あかねが言っていた大切なものがわかった気がした。







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