君に届けた春風
日曜日。高屋は兄の婚約者との顔合わせをしていた。少し高めのレストランで3人で食事をし、その後3人で両親のお墓参りに行った。

両親が眠るお墓の前で合掌をしている男性がいた。

3人はゆっくり男性に近づく。

高屋は男性を見ると怒りがこみ上がる。

男性は3人に向かって深くお辞儀をした。

高屋は男性に飛びかかり胸ぐらを掴む。

高屋「おまえ…何でここにいるんだ?」

男性は目を合わせず黙る

高屋「あんたのせいで…あんたのせいで父さんと母さんは…」右手に拳を作り振り上げる。

高屋兄が高屋の手首を握り「やめろ!春翔」

高屋「だってこいつは…」
高屋兄「そんな事したら母さんが悲しむ」

高屋は男性から手を離し、男性から体を反らす

高屋兄「出所されたんですね…」真顔だ。
男性は頭を下げ、その場から無言で立ち去る。

高屋は兄の胸ぐらを掴み「何で止めたんだ!アイツは父さんと母さんを殺した!何でアイツがヌクヌクと生きてるんだ!兄ちゃんは憎くねぇのかよ!」目に涙がたまっていた。

兄「俺だって憎いよ!殴りたかったよ!でも、殴ったところで父さんと母さんが帰ってくるわけじゃないだろ!!どうにもならない事だってあるんだ。春翔、もう少し大人になれ…」
お墓の前にしゃがみ親を見上げるようにお墓を見つめた。
高屋はゆっくり兄から手を離し顔を反らした。

高屋「帰る…気分が悪い」背を向け歩き出す

兄婚約者「春翔くん…」追いかけようとする
兄「放っておけ!」
婚約者「でも…」
兄「アイツは…春翔は大丈夫だ」涙が頬を流れた

高屋はひたすら歩き、気付くと奈津の自宅前にいた。奈津に電話をかけ外に呼び出した。

近くの公園に行き、奈津は自販機でジュースを2本買った。高屋は澄んだ青空を眺めていた。

奈津は高屋に1本のジュースを渡す。
高屋は奈津を抱きしめた。

奈津「高屋…どうしたの?」
高屋「ごめん…少しこのままでいさせて…」
声がかすれ鼻をすする。
奈津「高屋…泣いてるの?」
高屋「泣いて…ないよ…水月に会いたくなった」
奈津は高屋の背中を撫でるようにさすった。
奈津「よしよし…」

奈津と高屋はゆっくり体を離し
見つめ合う。

奈津「何があった?」
高屋は俯いた。

高屋と奈津はベンチに座りジュースを開ける
カシャ!っと缶を開ける音が、2人を包んだ。

奈津は一口飲む。
奈津「高屋…今日何か用事あったんじゃないっけ?」高屋の顔を覗き込む。
高屋「もう終わった。だから水月に会いにきた」俯いたままで、ジュースを一口飲む。

沈黙が続く中、蝉の声が鳴り響く。

奈津は空を見上げる。
高屋も空を見上げ、ゆっくり語り始めた。

高屋「水月…あの写真覚えてる?いつか一緒に行こうって言った特別な場所の写真…」

奈津「うん。一緒に行ける日が楽しみ」

高屋「あの場所…父さんと母さんが出会った場所で、父さんが母さんにプロポーズした場所なんだって。」

奈津「へぇ〜。素敵だね…」

高屋「だから、父さんは俺と兄貴をよく連れてってくれたんだよな…
俺と兄貴はよく喧嘩してた。
父さんと母さんは本当に仲良くて喧嘩もしないで。よく旅行に行って、家でもベタベタしてこっちが恥ずかしくなる位。
父さんはよくいろんな言葉を教えてくれた。
母さんはよくいろんな歌を歌ってくれた。
子供の頃、兄貴とオモチャの取り合いで喧嘩になって母さんが必死に止めるのも聞こえず、夢中で兄貴と揉めてた。
そしたら父さんが仕事から帰ってきて、俺達を掴んで雨が降ってる外に出されて、思う存分やれ!って。俺達は雨の中反省した。
父さんは、殴りあったところでおまえらに何が残るんだ?って。俺達は改めて家に入り散らかった部屋の状況見て2人で泣きながら母さんに謝った。母さんは俺達を抱きしめて、なだめてくれた。そのまま俺達は2人で風呂に入って気づいたら仲良く遊んでた。
俺が小5の時、友達とケンカして服も汚れて、ボロボロで帰った次の日、父さんがあの場所に連れてってくれた。
あの場所に着いた時、父さんに言われたんだ。
おまえは何を守るために友達とケンカしたんだ?って。ケンカは大切なものを守るためにやるもんだって。俺は嫌がらせされたことに腹がたって仕返ししたことを伝えた。
父さんは俺に今溜まってる怒りを父さんにぶつけるよう言ってきたから、父さんを倒そうと必死に殴りかかった。体が小さい俺は父さんに何度も投げられて、悔しかった。
力だけでは、勝てないことを教えてくれた。

俺は父さんにとって大切なものって何か聞いた

父さんは山から見える景色を眺めながら言ったんだ。母さんの笑顔と幸せだって。
俺達は父さんと母さんの分身で、その分身が消えないように夫婦で守ってる。夫婦はお互いにお互いの笑顔を守る。母さんの幸せは父さんの幸せで。俺達の幸せは父さんと母さんの幸せなんだって。父さんは母さんが笑顔で幸せなら、それだけで充分なんだって。
だからもし母さんを悲しませるような事をしたら、例え子供の俺達でも許さない!って。
その言葉が妙に父さんの大きさを感じて、かっこよかったんだ。」
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