君に届けた春風
高屋がボーッと天井を見ていると、携帯が鳴る。あかねからだ。
奈津の送別会をやってるという。
だが、高屋は冷たく断り電話を切った。
高屋は、奈津がアメリカ留学に行く事は発表前から知っていた。
奈津が夢中で図書室で勉強している姿も見ていた。一生懸命勉強する奈津の姿に陰でただ応援しているしかなかった。
高屋が奈津に別れを告げる日。放課後に奈津の担任から呼ばれ奈津がアメリカ留学に行かないと言い出した事を知った。
奈津はアメリカで本当にやれるか不安がってるが、やっと叶った夢をこのまま諦めるのはもったいない。高屋から背中を押すよう先生が言う。水月は、今までこの為に頑張ったんだと。
高屋は廊下を歩きながら、考えた。奈津は目を輝かせ必死に頑張る姿を。今までに見た事ない奈津の輝く姿を。下駄箱に行くと奈津がいた。
高屋は心を鬼にして奈津にひどい言い方をした。心にもない事を言うのが辛かった。奈津から去っている時、高屋は泣いていた。
高屋はあまり眠れないまま朝を迎えた
鳥の声が聞こえ空は晴天。
窓に太陽の日差しが差し込む。
突然、ドアがガチャっと勢いよく開き長谷部とあかねが入ってくきた。
あかね「高屋!何してんの!」
高屋「んだよ!朝っぱらから!っるせぇなあ!」布団をかぶり背を向ける
長谷部「おい!高屋!らしくねぇぞ!」
高屋の体を仰向かせる。
高屋「なんだよ…おまえまで。関係ねぇだろ」
長谷部「あーそうだな。関係ねぇよ!けど、見てられないんだよ!おまえも!水月も!」
高屋は体を起こし机に置かれたイルカのキーホルダーを見る。
あかね「昨日の奈津、笑顔がなかったんだよ。ずっと、高屋を待ってたよ」
高屋は大きく溜息をついた。
あかね「高屋!いいの?好きなんでしょ?奈津の事…」高屋を覗き込む
高屋は目を反らす。
あかね「後悔するよ!熊井の時みたいに」
高屋「っるせぇなぁ…放っとけよ‼︎」と布団をかぶり背を向けた
あかねは目を反らし立ち上がる
あかね「長谷部!行こ!こんな分からず屋はクズだよ!クズ!」バン!っと強く布団を叩き長谷部の手を引っ張り部屋を出た。
ドアも勢いよく閉めて行った。
高屋は、あかねが自分の目の前に置かれたなつからの手紙を見つめた。
体を起こし、手紙を手に取るが開けずにじっと見つめた。
封筒には「高屋へ」と奈津の字で書かれている
ゆっくり、封を開け手紙を広げ読み始めた。
読み終えた高屋は急いで着替え階段を駆け下りた。
階段下で兄が立って車の鍵を見せていた。
兄「空港まで行くんだけど、乗ってくか?」
高屋「兄ちゃん…」口角を上げ兄の車に乗った。
奈津は、留学へ旅立つ前に、高屋の顔を思い浮かべながら手紙を書いていた。
留学に旅立つ前日、送別会であかねに手紙を高屋に渡すよう伝え、預けたのだ。
出発前日の夜、奈津は自分の部屋を片付けていた。奈津はスッキリ片付いた自分の部屋を見渡す。
「忘れ物ないようにしてよ〜」ドア越しに母親の声がし奈津はドア向こうにいる母親にとどくよう返信する。
奈津は携帯の虹の写メを眺めていると、瞼があつくなり、気づけば涙が溢れ出ていた。
奈津は枕を抱きしめ泣き続けた
奈津「高屋…会いたいよ…高屋…」
何度高屋の名前を声に出しても高屋がいない事の寂しさを実感する奈津だった。
奈津は窓の外を見て夜空を見上げた。
月が綺麗で奈津は、高屋も見ているといいな。と眺めていた。
翌朝。奈津は荷物を持って家を出る。
親が運転する車に乗ろうとした時、恵里奈が来た。恵里奈はベンツから降りて奈津の前に立つ
恵里奈「ったく!あんたバカじゃないの!」
腕を組み奈津を睨み話を続けた
恵里奈「やっぱり、高屋くんはこの恵里奈様と結ばれる運命だったのね〜。私が高屋くんと付き合った方が高屋くんもホッとしているわ。
安心してアメリカに行ってらっしゃい!高屋くんは私と幸せになるから」髪をさっとかきあげベンツに乗って去って行った。
晴れた空の下。奈津を乗せた車が走る。
奈津は走る景色を見ながら高屋との思い出を懐かしく思い浮かべていた。
携帯を手に取り、高屋との写メを1つ1つ見ていた。
空港に着くとあかねが待っていた。
親はアメリカ行きのチケットの手続きに行っている。
あかねと奈津は待合席に座り親が戻ってくるのを待つ
あかね「奈津…本当にこのまま行っていいの?」奈津の顔を覗き込む。
奈津はあかねに微笑みかける。
奈津「あかね…いつもありがとう。あかねが友達でよかった…」
あかね「奈津…実は高屋知ってたんだよ?奈津、先生にアメリカ行くの断ったでしょ?だから高屋は奈津に別れを言ったんだよ。高屋…辛そうだった。泣いてた。初めて見たよ…あんなに泣く高屋見たの。多分…親が亡くなった時より親友が亡くなった時より1番泣いてたんじゃないかな。」
奈津の親が手続きを終えて戻ってくる。
あかね「手紙書くからね」
奈津「うん。落ち着いたら連絡するね」
あかねと奈津は抱き合い別れを惜しむ。