少しずつ近づきたい
 彼がエレベーターを降りてすぐに自分も降りる階に着いたので、重い足取りでエレベーターの外に出た。

 左右を見渡しながら足を進めると、柿堺がすでに待っていた。彼と距離を置きながら、挨拶を交わした。

 さっさと終わらせたいと思っていると、彼は口を開いた。

「あのさ・・・・・・」
 
 何を言ってくるのだろうと思いながら、彼の顔を見る。

「・・・・・・彼女になってほしいんだ」
「・・・・・・え?」

 一体何を言われたのかわからずにいると、彼が言葉を続ける。

「今日、何度も話しかけてきたし、何度もこっちを見ていたよね? それを見て嫌われていないんだと思ってさ・・・・・・」
「待ってください、それは違う・・・・・・」

 仕事のことで報告しないといけないことがあったから、報告していただけだ。

 そのことを言っても、彼はまるで聞いていない。

 それでも何度も否定しても、誤解していることを言っても、彼はこれっぽっちも信じていない。

「前から告白して駄目だろうなと思ったんだ。それでイライラしていたら、あの・・・・・・彼女に声をかけられてさ・・・・・・」

 聞きたくもない話を聞かされて、整理するとこういうことだ。

 断られるだろうと思いながら告白をして後悔していると、偶然彼女に会って、意気投合して気づけば恋人になったらしい。

 しかも彼は彼女とも関係を続けながら、自分とも一緒になろうとしている。

「私・・・・・・」
「ああ、心配しなくていいから。正直なところ・・・・・・あっちより好きだから。彼女になってくれるよね?」

 ヘラヘラと笑いながら言っている彼に怒りが頂点を達してしまいそうだ。

「一緒に帰ろう。あ! それともどこかへ行く? せっかくだしさ・・・・・・」
「一緒に帰らないし、どこにも行かないです! ちょっと! やめて! 嫌です! いい加減にして!」

 自分勝手に動く彼に腕を引っ張られて、足に力を入れて抵抗した。
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