冷酷上司の甘いささやき
とはいえ、そんな憤りを口に出して言えないのが私の性格であって……。

「そ、そうか! お疲れ様! また明日!」

と、私は笑顔で日野さんをそう見送ってしまった。


ああ、私のバカバカ! これからこの量をひとりでやるとか!

気づけばほかの女性社員さんたちも帰り支度始めてるし……今日はみんな仕事が終わるの早かったんだなあ。


今日一日の業務を終え、すっきりとした顔で帰り支度を始めてるみなさんを見ると、『手伝ってください』とはとても言えなかった。


仕方ない、ひとりでがんばろう。
そう思い、パソコンの画面に向き直った。



入力手続きはなんとか二十一時には終わり、私はデータを保存してからぐっと大きく背伸びをした。

そして、入力したばかりのデータが入っているディスクを課長の席へと持っていく。


「課長、お待たせしてしまいすみませんでした」

私はそう言って、まだ表面が少し熱くなってるディスクを課長に手渡した。


「ありがと。お疲れ」

課長は、ディスクを受け取りながら、いつもの無表情でただそう答えただけだったけど、『ありがとう』とか『お疲れ様』を、ちゃんと言ってくれる人なんだぁ……と疲れた頭でぼんやりと思った。
いや、課長はいつもそっけないだけで、決して鬼ってわけじゃないんだから、そのくらいは普通に言ってくれるんだろうけど。

でも、少しうれしかった。課長がそんな風に言ってくれると正直思っていなかったというのもあり、余計にそう感じるのかもしれない。
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