冷酷上司の甘いささやき
みんながほどよくできあがって、座席や料理の位置も自由に動かし始めたころ、京介が私のとなりに座ってきた。

「相変わらず、由依は酒強いな」

そう言う京介も、みんなと比べたら対して酔っている様子はない。


「うん、でも今はそんなに飲んでないよ」

「そうか? まあいいや。お前、最近どうなの」

ドキ、と一瞬体が緊張する。その言葉の意味は、自分ではちゃんと理解しているつもりだったけど、

「なにが? 仕事?」

と、ごまかしてしまった。


「仕事じゃねぇよ。恋愛だよ」

「あ、そっちか」

「わかってただろ」

「はは……」

べつに、元カレだから答えにくいとか、そういうわけじゃないんだけど。単に、恥ずかしかっただけ。
今まであんまり彼氏をつくってこなかった私は、つまり今まであんまり自分の恋愛の話を誰かにすることもなかったから。

でも、隠すことじゃないし、私は事実を京介に伝える。


「いるよ、彼氏」

そう言うと、京介は少し驚いたような顔を見せた。


「ちょっと、なんで驚くの」

「い、いや驚いてない」

「驚いたじゃん」

私はそれをとくに気にすることもなく、あははと笑いながらそう言ったのだけれど。



京介は、なんだか曇ったような表情で、ビールジョッキをトン、とテーブルに置いた。

様子のおかしい彼に、私が「京介?」と問いかけると。



「……大丈夫なの?」

「え?」

京介の言っている意味が、よくわからなかった。私が首を傾げると、京介は続ける。
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