冷酷上司の甘いささやき
「俺、お前にフラれた時、だいぶショックだった。そりゃ、彼女にフラれたら誰だってショック受けるだろうけど。なんつーか、俺の気持ち、なにもお前に届いてなかったんだって思ったから」

「え?」

「俺はお前のことすげぇ好きだったから、一分でも一秒でもいっしょにいたいと思ってた。でもお前はそうじゃなかった。俺といっしょにいる時間より、ひとりで過ごす時間の方が大切だって言ってた。お前からしたら価値観の相違、くらいにしか思ってなかったのかもしれないけど、それって、彼氏としてはだいぶショック受けたっつーか」

京介は再びビールジョッキを片手に持つと、残りのビールをグビッと喉に流しこんだ。これまで、京介のこんな飲み方は見たことなかった。


私、京介にそんなふうに思わせていたんだ……。



「……ごめんね」

今さら謝るなんておかしな話かもしれないけど、今の京介を見たら、そんな言葉しか出てこなかったのも事実で。


すると京介は。

「だからさ、お前はもう誰とも付き合わないのかと思ってたよ。けど、今彼氏いるんだ? その彼氏とは大丈夫なわけ? お前の心配っていうより、彼氏の方が心配だよ。由依のひとり好きの性格が俺を傷つけたみたいに、今の彼氏のこともそのうち傷つけるんじゃない? ていうか傷つけると思う」

「え……」

「まあ、そうなったら俺がいくらでも話聞いてやるけどな」

そこまで言うと、京介はようやくハハ、と笑った。私もつられるように苦笑してみせた。
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