冷酷上司の甘いささやき
しまった。考えこんでいたせいで携帯を見てなかった。夜のこのあたりの道は危ないからひとりで歩くなよって、出かける前に言われてたのに。

でも、もうここまで来ちゃったし仕方ない。

私は課長の部屋のインターホンを鳴らした。

課長はすぐに戸を開けてくれたけど、連絡なしに帰ってきた私を見て、眉間にしわを寄せた。


「なにひとりで帰ってきてんの。危ないだろ」

「す、すみません。ボーッとしてました」

「ボーッとしてるから心配なんだろ。ほら、上がれ」

おじゃまします、と私はいつものようにお部屋の中におじゃまする。



「戸田さん、なんか飲む?」

「あ、いえ。お腹いっぱいなんでっ」

「なに食べたの」

「に、肉です。肉っ」

京介の言葉で動揺していることを悟られないように、私は必死に笑顔を作り、明るく答えていた。

でも、きっとそれが不自然だったんだろう。


「なんかあったの? なんでそんなにテンション高いの?」

と、聞かれてしまった。



「え、えー? そうですか? 飲んでるからかな?」

「なに女子みたいなこと言ってんの。百杯飲んでも変わらないような奴が」

「ひゃ、百杯飲んだらさすがに倒れます!」

「はいはい。で? 元カレになにか言われたとか?」


え、なんでそんなあっさりわかっちゃうの……?



「私、そんなにわかりやすいですか?」

「普段はどっちかというとわかりにくい。落ち着いてて、あまり感情的になるタイプじゃないし。でも、恋愛経験値が低いせいか、恋愛が絡んで悩んでる時はわかりやすいんだわ」
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