冷酷上司の甘いささやき
「……悪かった」

「え?」

な、なんで課長が謝るの?


「……戸田さんはひとり好きで、俺もひとり好きで。だからこそ、距離のある付き合い方をしよう、って俺が言い出したことだったのに。戸田さんと過ごす時間が楽しすぎて、いつの間にかひとり好きだった俺がどっか行っちゃって、戸田さんに無理させてた?」

課長にそう言われ、私は抱きしめられたままの体を少し離し、課長と目を合わせた。


「ち、違いますっ。無理なんかしてないです! 私も、気づいたらひとり好きの自分がどっかに行っちゃってたんです! だ、だけど根はひとり好きなので、元カレに言われたことがずっと引っかかっちゃってて……」

「それは俺のせいだから、戸田さんは謝らなくていい」

「課長のせい? どういうことですか?」

私が問いかけると、課長は私の顎を持ち、突然キスをしてきた。


「……っ⁉︎」

突然のことに、目をつむることもできなかった……。



唇はすぐに離れ、ぽかんとした表情のままの私に、課長は言った。



「好きな女の子を不安にさせないのが彼氏の役目なのに、俺はそれができてなかった」

「へ、あ、あの」

「いつか好きじゃなくなるかも、なんて思うのは、俺がしっかりしてないからだ。これからは余計な心配しなくて済むように、もっと俺のこと好きにさせる。だから、



安心して俺のこと好きになってよ」



……トクン、と胸が高鳴った。

課長の瞳が、今まで見た課長のどんな瞳より、やさしくてやさしくて、



愛が、すごく伝わってきたからーー……。
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